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2014-04-06

絵本『犬になった王子 チベットの民話』の犬は何犬か?

 絵本『犬になった王子 チベットの民話』(岩波書店)に対するご質問で、絵本原画展会場やネット上で一番多いのは、登場する犬の犬種は何かという点です。そこで今回、この場で詳しく解説しようと思います。

 絵本制作の初期段階では、日本人になじみの深い日本犬風にしようと考えていたのですが、編集者との協議の中で、やはりチベットの犬にするのがふさわしいという事に決まりました。
 チベットの犬を調べると純血種が何種類かある事が分かりました。最も良く知られているチベット犬種は「チベタン・マスティフ」なので、編集者もそれを推薦しましたが、私は物語に出て来る可愛らしいイメージとそぐわない様に感じました。マスティフは闘犬なので、あまりに怖すぎて子供も親しみが持てないでしょう。その他に可愛らしいチベットの愛玩犬として「チベタン・スパニエル」「チベタン・テリア」「ラサ・アプソ」等がありました。いずれも古来からチベット寺院等で大切に飼われて来た由緒ある犬であると文献に記されていました。
 その中で、素朴な中に力強さのある「チベタン・スパニエル」をベースとする事に決めました。しかし、「チベタン・スパニエル」はかなりの小型犬なので、編集者との打ち合わせで物語のイメージから中型犬にしようと決定していましたので、大きさが合いません。

 私は、その後、2012年4月8日~26日まで「中国、チベット・四川省写生旅行」を敢行しました。その時にチベット犬の雑種がたくさんいましたので、つぶさに観察しました。ほとんどは物語のイメージ通りの毛が長く素朴で愛らしい中型犬でした。色は黄土色(金色に近い)と黒色が多いです。チベットは標高が4000m級で、夜間はかなり寒くなりますので、犬でも猫でも長毛種が多いのです。
 私が高台(チベット自治区・チョンギェの蔵王墓)からチベットの雄大な大麦(チンコー麦)畑をスケッチしていた時、2頭の親子犬がすり寄って来ました。とても人懐っこいのです。かなり長い時間私に寄り添っている犬のぬくもりを感じつつ、私は「きっと、この絵本は良い絵本になる。」と確信しました。チベットの犬が、「絵描きさん、私を上手く描いて下さいな!!」と歓迎してくれている様に思えたのです。チベット滞在も残りわずかのその頃、苦心してここまで来て良かったな・・・と目頭が熱くなりました。あまりにも美しく広大なチベットの風景、物音一つしない静かでゆったりと流れる時間の中、私と犬は心を一つにしながら、いつまでも鉛筆を走らせていました・・・。

チベタン・マスティフチベタン・マスティフ

チベット犬01チベット犬の雑種

チベット犬02スケッチする私とチベット犬

チベット犬03スケッチする私とチベット犬

チベット犬04スケッチする私とチベット犬

チベット犬05スケッチする私とチベット犬

チベット犬06スケッチする私とチベット犬

チベット犬07チベット犬の雑種


 日本に帰って来てから、「チベタン・スパニエル」の風貌に現地で見た雑種犬を合わせてイメージを作り上げました。私は人物でも風景でもしっかりとした取材・写生を大切にしますので、チベットの現地で犬をゆっくりとスケッチする間のなかった私は、日本で犬を取材する事にしました。日本ではチベット犬はほとんどいないでしょうから、長毛犬の「キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル」をスケッチして、骨格構造をつかみました。
 この様に3種の犬の要素を合わせて試行錯誤の上、『犬になった王子』の素朴な中にも気品のある王子犬が誕生したのです。
  日本画家・絵本画家 後藤 仁
 


犬になった王子――チベットの民話犬になった王子――チベットの民話
(2013/11/16)
君島 久子

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テーマ : 絵本・制作・イラスト
ジャンル : 学問・文化・芸術

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後藤 仁 プロフィール

後藤 仁(JIN GOTO、后藤 仁、고토 진)

Author:後藤 仁(JIN GOTO、后藤 仁、고토 진)
~後藤 仁 公式ブログ1~
絵師〈日本画家・絵本画家、天井画・金唐革紙制作〉後藤 仁(JIN GOTO、后藤 仁、고토 진)の日本画制作、絵本原画制作、写生旅行、展覧会などのご案内を日誌につづります。

【後藤 仁 略歴】
 師系は、山本丘人(文化勲章受章者)、小茂田青樹(武蔵野美術大学教授)、田中青坪(東京藝術大学名誉教授)、後藤純男(日本芸術院賞・恩賜賞受賞者)。
 アジアや日本各地に取材した「アジアの美人画/日本の美人画」を中心画題として、人物画、風景画、花鳥画などを日本画で描く。また、日本画の技術を応用して、手製高級壁紙の金唐革紙(きんからかわし/国選定保存技術)や、大垣祭り(ユネスコ無形文化遺産)の天井画、絵本の原画などの制作を行う。
 国立大学法人 東京藝術大学 デザイン科 非常勤(ゲスト)講師(2017~21年度)。学校法人桑沢学園 東京造形大学 絵本講師(2017~18年度)。日本美術家連盟 会員(推薦者:中島千波先生)、日本中国文化交流協会 会員、絵本学会 会員。
    *
 1968年兵庫県赤穂市生まれ。15歳、大阪市立工芸高校 美術科で日本画を始める。東京藝術大学 絵画科日本画専攻 卒業、後藤純男先生(日本芸術院賞・恩賜賞受賞者)に師事。在学中より約12年間、旧岩崎邸、入船山記念館、孫文記念館(移情閣)等の金唐革紙(手製高級壁紙)の全復元を行う。
 卒業以降は日本画家として活動し、日本・中国・インドをはじめ世界各地に取材した「アジアの美人画/日本の美人画」をテーマとする作品を描き、国内外で展覧会を開催する。近年は「絵本」の原画制作に力を入れる。
 2023年、大垣祭り(ユネスコ無形文化遺産)天井画『黒龍と四つ姫の図』を制作奉納する。

○絵本作品に『ながいかみのむすめチャンファメイ』(福音館書店)、『犬になった王子 チベットの民話』(岩波書店)、『わかがえりのみず』(鈴木出版)、『金色の鹿』(子供教育出版)、『青蛙緑馬』(浙江少年児童出版社/中国)。挿絵作品に『おしゃかさま物語』(佼成出版社)。
 『犬になった王子 チベットの民話』は、Internationale Jugendbibliothek München ミュンヘン国際児童図書館(ドイツ)の「The White Ravens 2014/ザ・ホワイト・レイブンス 国際推薦児童図書目録2014」に選定される。また、宮崎 駿 氏の絵物語「シュナの旅」の原話になった事でも知られている。
○NHK日曜美術館の取材協力他、テレビ・新聞・専門誌・インターネットサイト等への出演・掲載も多い。

★現在、日本国内向けと、中国向けの「絵本」を制作中です~❣

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