2013-12-13
絵本『ながいかみのむすめ チャンファメイ』出版までの永き道のり その14
長い髪をなびかせながら喜び一杯で家に向かって走るチャンファメイ。それを迎える子ブタ達。母は家で寝ています。大きくそびえるガジュマルの木。時を告げるニワトリ。トン族村の入り口に建ってある木の門も描き込みました。畑で楽しそうに作物を収穫する人々。(水が出てすぐ作物が実り収穫というのは変なのですが、そこは「絵本」の誇張表現です。)
楽しそうに遊ぶ子供達。これらの遊びは、中国の現地やタイ・ベトナム・ラオス等の近隣諸国で実際私が見たものや、中国・アジア諸国と日本の歴史資料等を元に描いています。こま回し、竹馬、縄跳び、蹴鞠、ケンケンパー等、日本の昔日を思わせる素朴で懐かしい遊びが、アジア諸国では今も行われています。日本と同じ様にゲームをする子も増えているでしょうが、たいていの子は外で元気に遊んでいますよ。ちなみに、この子供達が遊ぶ場面は、私の敬愛する洋画家ピーテル・ブリューゲルへのオマージュでもあります。
庭先では水が出たのを祝う祭りが始まっています。トン族の伝統的な舞踊です。女性の頭はニワトリの羽根で飾られています。男達が奏でているのはトン琵琶です。私は実際現地で、幾つかのトン族舞踊・舞踊劇を取材しました。絵を良く見ると、嬉しさ余って時間と空間を飛び越えて舞踊に参加している私もいます。傍らにはいつも旅で用いるリュックサック、スケッチ道具、カメラも置いてありますが、これはご愛嬌です。私は実際、この様に舞踊の最後に引っ張り出されて踊らされました。
遠くには白く長く流れる滝が見えます。その右上を良く見ると、あの恐ろしい山の神の洞窟があります。普段は雲で隠れて絶対に見えないのですが、滝が現われた吉祥で霊力が弱まったのでしょう。
次は「後ろ扉」です。この場面は物語の後日談になります。トン族の伝統刺繍文様をあしらった画面に、子ブタを抱くチャンファメイと、それを見て微笑む少し元気になった母親を描きました。水も行き渡り草や花も咲いています。・・・そこには、素朴だけれども平和で幸せな時があります。ちなみに、このチャンファメイの慈愛をたたえた微笑みは、私の崇敬するラファエロ・サンツィオの聖母子画へのオマージュでもあります。それはまた、悲母観音のまなざしと言っても良いでしょう。
「見返し」にはトン族の銀製の背飾りと、子ブタを描きました。配色は、トン族衣装の藍染めの紺色をイメージしました。トン族女性の背中には、銀で出来たこの様な装飾品が取り付けられています。渦巻き文様(水流を表すとか、太陽を表すとかの解釈がなされています。)には魔除けの意味があるそうです。トン族では、”魔”は背中や襟・袖口等から入って来ると信じられており、その箇所に渦巻き文様を施します。第4場面のチャンファメイの後ろ襟にも刺繍の渦巻き文様が見られます。日本でも古来から渦巻き文様には魔除けの意味合いを持たせており、文化的共通点がここにもあります。
極めて良く見ると、最初の「見返し」の渦巻き文様の中の”龍”の画が上下逆さに向いており、後の「見返し」では、正しい向きになっています。たった一人の山神によって水が出なくなった世界は倒錯した不条理な世界です。全ての人々に公平・平等に水が行き渡る世界こそ、本来の正常な世の中であると言う事を示唆しています。
私の「絵本」には隠れたキャラクターやメッセージがたくさん描き込められています。それらを見つけてひも解いていくのも、また「後藤 仁 絵本」を見る楽しみとしていただけましたら嬉しいです。
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これでようやく2012年2月7日をもって、2011年5月31日から8か月の期間をかけた本画制作が終わりました。非常に疲れましたが、誠に充実した楽しい制作でした。絵本制作や絵画表現上の多くの事も学びました。
2月22日に福音館書店編集部と打ち合わせをして、絵に少しの手直しを加えて、2012年3月8日に福音館書店に作品全20点を納品しました。
この後、色校正を経て、絵本出版と至るのですが、この後も事情により結構時間がかかりました。そのお話はまた次回といたしましょう。 日本画家・絵本画家 後藤 仁
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