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2013-09-19

「日本画」から「絵本」へ(絵本原画展と絵本朗読会を終えて)

 何故、純粋美術の「日本画」に拘泥し、30年以上も描き続けて来た私が、今、「絵本」という新しい世界に飛び込んだのか・・・それには、多くの理由があります。
 日本画界の閉鎖性・権威主義・団体主義が体質に合わない事。欧米では「絵画」を芸術としてとらえ画廊が特色のある作品を販売するのに対して、日本では「絵画」を宝飾的高級品・投資品ととらえ大半を百貨店が機械的に販売してきたという事実。その百貨店の衰退による「日本画」等の高級美術品の先細りの現状。(このまま何も変革せずに行くと、数十年後は「日本画」は衰退してほとんど形骸化していると予測しています。)私は本来「物語絵」「絵巻物」等の文学性がある作品や「人物画(美人画)」に興味が高く、その様な作風を探求したいのに、現在の画商が求めるのは販売しやすい「風景」「花」ばかりである点。・・・等々その他にも多くの理由があります。

 その中でも、大きな理由として挙げられるのが、「日本画」がいったい誰を相手に描いているのか、そのが見えてこないという事実です。「日本画」は一枚ものですし、画材代も高く、制作も長い経験と高い技術を必要としますので、必然的に価格がかなり高くなります。号(ハガキサイズ)3~4万円で扱われている私の作品でも一般人の価値観からしては結構高いのですが、私等は日本画界では最も安い方で、号10万円、20万円の作品も多くあります。偉い先生ともなると号100万円、200万円を越えて来ます。それでは、「日本画」を買って楽しめる人は相当限定されて来るのです。その値段に見合った質の作品ならまだしも、多くはそうとは言えないのが現状です。(画商は投資的・計画的に絵の価格をつり上げます。)「日本画」のコレクターと言われる方々は、ほとんどが年配の富豪です。日本の中のほんの一握りの好事家が「日本画」を愛好している事になります。展覧会や画集なら多くの一般人も楽しめるのですが、やはり、あまりに敷居が高く感じられては人心が離れるもので、現在では特に若年層の「日本画」の認知度は相当悪いのです。30歳代以下の人は「日本画」という名称さえ知らない人がほとんどです。これでは「日本画」の世界は、次世代には必ず今以上に高速に衰退して行きます。
 私位の価格の作品を買われる方は、まだ一般人が多く、展覧会場で作品を購入していただいた方は本当に有難いのですが、せいぜい会場で少し挨拶する位で、大抵の場合は購買者の顔も見れないのがほとんどです。自分の作品がどこでどの様に皆様の手に届き、喜んでいただけているのか、今一つ把握出来ないもどかしさが、ずっとありました。

               *

 そのような中、福音館書店のお勧めもあり「絵本」を手掛ける事になりました。現在残された唯一とも言える「物語絵」に近いジャンルが生きているのが「絵本」の世界です。長年「物語絵」を描きたかった私は、張り切って自然とその世界に飛び込んで行きました。中学生の時に、マンガ・イラストの商業美術・印刷美術の世界から脱して、更に高度な純粋美術の世界を志した時以来の、大きな方向転換でした。しかし、純粋美術界の問題点・腐敗を目の当たりにしてきた私には、どちらが高い低いの区別は、もう感じません。

 今回「絵本原画展」と「絵本朗読会」等を通して感じたのは、作品の愛好者との距離の近さです。特に次の世代を担う、感性の伸びていく頃の子供達が作品を楽しんでくれると言う事は、大きな魅力です。また、子供だけでは無く、本当に上質な「絵本」は当然、大人でも楽しめるのです。
 展覧会会場で、美術館館長が朗読する「絵本」を熱心に聞き入る子供達。朗読会で、読み手が話す「絵本」に集中する子供達。また、インターネット上で、私の知らない場所知らない人達が、拙作絵本『ながいかみのむすめ チャンファメイ』を子供達に朗読している画像が幾つもありました。その子供達・大人達の熱心に聞き入る姿、子供達の澄んだ瞳を見ていると、ああ「絵本」を描いて良かったなと目頭が熱くなりました。まさに、作品愛好者のが見えるのです。「日本画」の世界の様にほんの一握りの人だけを対象とするのでは無く、「絵本」の世界では幅広くあまねく日本中いや世界中の人々を感動させる事も可能でしょう。

 「日本画」の画材や、日本美術史上での上質な作品群には大いなる魅力がありますので、これからも「日本画」を描いていく事は間違いないのですが、その表現媒体が展覧会だけだったものが、印刷美術までと幅が広くなっただけだと私は解釈しています。今後も「日本画」「絵本」と精力的に制作してまいりますので、ご教導の程よろしくお願い申し上げます。 
  日本画家・絵本画家 後藤 仁
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テーマ : 絵本・制作・イラスト
ジャンル : 学問・文化・芸術

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後藤 仁 プロフィール

後藤 仁(JIN GOTO、后藤 仁、고토 진)

Author:後藤 仁(JIN GOTO、后藤 仁、고토 진)
~後藤 仁 公式ブログ1~
絵師〈日本画家・絵本画家、天井画・金唐革紙制作〉後藤 仁(JIN GOTO、后藤 仁、고토 진)の日本画制作、絵本原画制作、写生旅行、展覧会などのご案内を日誌につづります。

【後藤 仁 略歴】
 師系は、山本丘人(文化勲章受章者)、小茂田青樹(武蔵野美術大学教授)、田中青坪(東京藝術大学名誉教授)、後藤純男(日本芸術院賞・恩賜賞受賞者)。
 アジアや日本各地に取材した「アジアの美人画/日本の美人画」を中心画題として、人物画、風景画、花鳥画などを日本画で描く。また、日本画の技術を応用して、手製高級壁紙の金唐革紙(きんからかわし/国選定保存技術)や、大垣祭り(ユネスコ無形文化遺産)の天井画、絵本の原画などの制作を行う。
 国立大学法人 東京藝術大学 デザイン科 非常勤(ゲスト)講師(2017~21年度)。学校法人桑沢学園 東京造形大学 絵本講師(2017~18年度)。日本美術家連盟 会員(推薦者:中島千波先生)、日本中国文化交流協会 会員、絵本学会 会員。
    *
 1968年兵庫県赤穂市生まれ。15歳、大阪市立工芸高校 美術科で日本画を始める。東京藝術大学 絵画科日本画専攻 卒業、後藤純男先生(日本芸術院賞・恩賜賞受賞者)に師事。在学中より約12年間、旧岩崎邸、入船山記念館、孫文記念館(移情閣)等の金唐革紙(手製高級壁紙)の全復元を行う。
 卒業以降は日本画家として活動し、日本・中国・インドをはじめ世界各地に取材した「アジアの美人画/日本の美人画」をテーマとする作品を描き、国内外で展覧会を開催する。近年は「絵本」の原画制作に力を入れる。
 2023年、大垣祭り(ユネスコ無形文化遺産)天井画『黒龍と四つ姫の図』を制作奉納する。

○絵本作品に『ながいかみのむすめチャンファメイ』(福音館書店)、『犬になった王子 チベットの民話』(岩波書店)、『わかがえりのみず』(鈴木出版)、『金色の鹿』(子供教育出版)、『青蛙緑馬』(浙江少年児童出版社/中国)。挿絵作品に『おしゃかさま物語』(佼成出版社)。
 『犬になった王子 チベットの民話』は、Internationale Jugendbibliothek München ミュンヘン国際児童図書館(ドイツ)の「The White Ravens 2014/ザ・ホワイト・レイブンス 国際推薦児童図書目録2014」に選定される。また、宮崎 駿 氏の絵物語「シュナの旅」の原話になった事でも知られている。
○NHK日曜美術館の取材協力他、テレビ・新聞・専門誌・インターネットサイト等への出演・掲載も多い。

★現在、日本国内向けと、中国向けの「絵本」を制作中です~❣

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絵:後藤 仁 /文:君島 久子 /出版社:岩波書店絵本ナビ


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