2013-04-16

絵本『ながいかみのむすめ チャンファメイ』出版までの永き道のり その4

 絵本『ながいかみのむすめ チャンファメイ』の話の採集地は、再話の君島久子先生(日本における中国民話研究の第一人者、国立民族学博物館名誉教授)によると、中国の広西チワン族自治区のトン族村だそうです。元は、中国の著名な民話研究家の肖甘牛(簫甘牛)氏が現地で採集し、1955年に少年児童出版社(中国)から『長髪妹(チャンファメイ)』として発表したのが最初だと思います。その後、「中国民間故事選 第一集」(人民文学出版社 中国・1962年)に載ったものを、君島先生が翻訳されて日本で最初に紹介されたという事です。
 話の採集地は広西チワン族自治区ですが、トン族文化の中心地は貴州省ですので、今回の取材も貴州省を中心に行いました。

車江 車江 中国のトン族村で二番目に大きな鼓楼 (2008年4月22日) © GOTO JIN

 2008年4月22日に車江(しゃこう)に向かいました。途中の山々ではミャオ族の美しい棚田が目を楽しませてくれました。
 22日から23日までトン族の村、車江を見て回りました。この村には、中国のトン族村で二番目に大きいという「鼓楼(ころう)」が建っています。トン族は木材加工に優れた民族で、トン族村には必ず「鼓楼」と「風雨橋(ふううきょう)(花橋ともいう)」があります。「鼓楼」は元々上部に太鼓が掛かっており緊急時に鳴らしたそうですが、現在では太鼓は無い場合が多く、トン族のシンボル的存在で主に社交場として活用されている様です。「風雨橋」は屋根の付いた立派な橋です。
 大昔、トン族やミャオ族は長江下流域に住んでいたらしく、漢族などに追われて山奥のこの地に逃れてきた歴史があります。その時、海に逃れて沖縄辺りを通り日本に来た人々がいるという説があり、日本人のルーツの一つではないかと考える民族学者もいるそうです。確かに、私が見たトン族・ミャオ族は日本と相当近い文化を持っていますし、顔立ちも似ています。通常、中国人はもち米を好まないそうですが、この辺りのトン族などの民族は、もち米を好んで食します。納豆を食べる民族もこの辺りの地域だけです。雲南省・貴州省から日本までのこの一帯の文化を、照葉樹林文化圏という学者もいます。

 車江では、物語に出てくる榕樹(ガジュマル)の木をスケッチしたりしました。この辺りの榕樹は、沖縄やバリ島などで見られるものの様に幹が細かく分かれたり垂れ下がったりしておらず、太くて力強い幹をしています。
 この車江辺りまでは公共交通機関でも行けるのですが、ここから先はチャーター車でしか行けない地域です。私が最も訪ねたかった「増衝村(ぞうしょうそん)」です。

増衝村1 増衝村 1672年建立の最古の鼓楼 (2008年4月23日) © GOTO JIN

増衝村2 増衝村 全景 (2008年4月23日) © GOTO JIN 

 23日の朝に車江を出発しました。
 車で脇道に入って行き、かなり険しい道を進みました。通常はジープのような四輪駆動車でないと行けないらしいですが、私達の車は見た目は普通乗用車でした。「大丈夫かな・・・」と思いましたが、その大きな中国製の乗用車は、思った以上にパワーがありました。前日の雨でぬかるんだ朱土色のどろどろの悪路を疾走しました。車一台がやっと通れる狭い道の、左は崖で右は谷底です。落ちたら命はありません。すれ違う車は1~2台だけで、人も全くいません。
 3時間あまりも走りようやく村が近付いて来た様で、馬を引いた若者とすれ違いました。ところが、村まであと数百メートルという所で、タイヤが泥でスリップして、車が完全に進めなくなりました。仕方ないので車を置いて歩いて村に入りました。

 増衝村は、まさに桃源郷でした。私は目を疑いました。夢を見ている様でした。・・・そこには日本の百年前を彷彿とさせる風景が広がっていました。今まで多くの日本の辺境地やアジアの村々を見て来ましたが、これ程、古のなつかしさを感じた所はありません。
 村には最古の鼓楼が立っています。1672年建立だそうですが、火事に弱い木造建造物なのでなかなか古いものは残らないそうです。鼓楼も一般家屋も全て杉の木材で作られていますが、釘は使わず木を組むだけで建てています。
 高台から見た村の全景も素晴らしいです。曲がった川に挟まれたわずかな平地に村は作られています。私の『絵本』の最初の場面の遠景に、この増衝村を描いていますので、探してみて下さい。
 村では、ブタやニワトリが放し飼いにされ、あちこちで糸車をまわす光景が見られ、子供達が元気に遊んでいます。人々の衣装は、ズボンはジーパンの人もいますが、だいたいは民族衣装を着ています。
 ただ、高台から見る角度を変えると、多くの屋根の上にパラボラアンテナが見えました。「ああ、ここにも現代文明の波は押し寄せているのだな。」と感じました。これは、旅行者の勝手な願望で、自国も便利な文明を受け入れかつての美しい光景を手放して来たのだから何も言えないのですが、この様な美しい光景が永久に変わらずにあって欲しいと願わずにはいられません・・・。
 私はスケッチしながらも、この美しい光景にしばし見惚れて、涙が出そうになりました。

 夜は、トン族の民家に宿泊しました。今宵の外国人はこの村に私一人です。よほどこだわりが無い限り、観光客が来る所ではありません。(今後は道が良くなり観光客が増えるかもしれませんが、これも旅人の勝手な願望ですが、出来れば団体客で押し寄せる日が来ない事を祈りたいです。)夕食はトン族料理です。ここでは高級品である肉はあまり出ず、野菜・山菜が中心でお腹にも優しかったです。ようやくお腹の具合も快方に向かっていました。
 トン族の家の構造なども内部から観察しました。天井板は基本的に無くて、屋根瓦が部屋から見えます。壁も床も窓枠も全て杉の木で出来ていて、歩くとギシギシと良い音がします。
 トイレはどこかと聞いたら、小は家の裏の側溝にしてくれという感じです。大はというと、家の子供の案内に連れられて数十メートル行くと、川の縁に作られた小屋の様な共同便所がありました。出した物はそのまま川へ落ちて行くシステムです。トイレの前面には申し訳程度の扉があるのですが、上からは丸見えでした。
 ドライバーの黄(ホワン)さんは、車が盗まれると言った身振りで、車に戻って車中で寝るらしいです。「こんな平和に見える村でも、やはりそんなものなのかな~。」と思いました。

 夜は木のベッドで寝ました。この日はとても心地良い眠りに落ちて行きました・・・。

  この続きは、また次回としましょう。  GOTO JIN
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No title

おはなしを読んで、絵本を見ると、とても面白いですね。
いとぐるまを廻したり、鶏に餌をやったり、屋根でくつろぐ猫や
古い古い鼓楼・・・・
左の下の家の前にある踏み台みたいな木の道具はなんでしょう。
おいおいご説明もあるかと、楽しみにしています。

「絵本」中の道具の説明

「絵本」で描いた道具は、実際、増衝村で見た物で、米などを入れて脱穀したりする道具だと思われます。この様な古い道具があちこちに、さりげなく置いてあります。この村では使用している所は見なかったのですが、ラオスで似た道具を使っているのを見た事があります。石の部分に米を入れ、反対側の棒を足で踏んで脱穀します。 GOTO JIN
プロフィール

後藤 仁(GOTO JIN)

Author:後藤 仁(GOTO JIN)
 ~後藤 仁 公式ブログ1~
日本画家・絵本画家 後藤 仁(GOTO JIN)の日本画制作、絵本原画制作、写生旅行、展覧会などのご案内を日誌につづります。

  〔後藤 仁 略歴〕
1968年兵庫県赤穂市生まれ。15歳、大阪市立工芸高校美術科で日本画を始める。東京藝術大学絵画科日本画専攻卒業、後藤純男先生(恩賜賞受賞者)に師事。在学中より約12年間、旧岩崎邸、入船山記念館、孫文記念館(移情閣)等の金唐革紙(手製高級壁紙)の全復元を行う。卒業以降は日本画家として活動し、中国・インドをはじめ世界各地に取材した「アジアの美人画」をテーマとする作品を描き、国内外で展覧会を開催する。近年は絵本の原画制作に力を入れる。
○絵本作品に『ながいかみのむすめチャンファメイ』(福音館書店)、『犬になった王子 チベットの民話』(岩波書店)、『わかがえりのみず』(鈴木出版)、挿絵作品に『おしゃかさま物語』(佼成出版社)。『犬になった王子 チベットの民話』は、Internationale Jugendbibliothek München ミュンヘン国際児童図書館(ドイツ)の「The White Ravens 2014/ザ・ホワイト・レイブンス 国際推薦児童図書目録2014」に選定される。NHK日曜美術館の取材協力他、テレビ・新聞等への出演・掲載も多い。
○東京藝術大学・デザイン科非常勤講師。東京造形大学・絵本講師。金唐革紙保存会 主宰。日本児童出版美術家連盟(童美連)(太田大八先生、赤羽末吉先生、いわさきちひろ先生らが創設)会員・理事。絵本学会(太田大八先生らが創設、現会長:松本 猛先生)会員。日本中国文化交流協会(井上 靖先生らが創設)会員。この本だいすきの会(代表:小松崎 進先生)会員。千葉県松戸市在住。

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