fc2ブログ

2016-09-06

日本文化・美術・絵画界(日本画・絵本など)の現状を憂える・・・

 私は15歳の時に大阪市立工芸高校 美術科で本格的に日本画を始め、東京藝術大学 日本画専攻を卒業した1996年から、プロの日本画家としておよそ20年間活動して来ました。勉強期間を入れると約33年の日本画歴です。師は、後藤純男 先生〔東京藝術大学名誉教授、日本芸術院賞・恩賜賞受賞者〕。
 絵本の世界では、2007年の個展に福音館書店編集者が来られて絵本制作のご依頼を受けた事がきっかけで、2013年2月に初絵本『ながいかみのむすめチャンファメイ』(福音館書店こどものとも)、11月に絵本『犬になった王子 チベットの民話』(岩波書店)を出版しました。制作期間を入れると10年弱の絵本歴になります。

絵本『ながいかみのむすめ チャンファメイ』表紙・表絵本『ながいかみのむすめ チャンファメイ』(福音館書店こどものとも)

絵本『犬になった王子(チベットの民話)』 表紙絵本『犬になった王子 チベットの民話』(岩波書店)


 前々から感じていた事でもあり、近年また痛感するようになった事ですが、日本における創作者・絵描きの地位のいかに低い事か、欧米や東洋各国に比較しても、文化に対する国や団体・個人レベルでの意識の薄さを嘆かわしく思います。
 ただ、日本画・洋画・彫刻・書道等は伝統的に社会的地位が高い傾向があり、特に美術団体のトップクラスの方々の社会的・経済的優位性は極めて高いものがあります。逆に、その地位・権威だけに頼ってしまう懸念さえあるのが現状です。一つの目安として挙げると、文化勲章受章者・文化功労者の大半が日本画・洋画の先生方で占められています。
 しかし、その他の美術ジャンルの社会的地位はまだまだ低過ぎる傾向が顕著です。2010年に水木しげるさんがマンガ家初、2012年に安野光雅さんが絵本作家初、宮崎 駿さんがアニメーション作家初の文化功労者になっただけです。
 日本を代表する絵本作家のお一人で東京藝術大学の先輩でもある、いわむらかずお さんが2014年にフランス芸術文化勲章シュヴァリエ章をご受章された時に、日本での報道の少なさに日本児童出版美術家連盟(童美連)監事の浜田桂子さんも疑問を呈しておられました。その童美連を創設された太田大八さんは先日、お亡くなりになられましたが、先生の多大なご功績を考えると文化功労者位になっていないとおかしいのではないかと感じます。日本を代表する絵本画家のお一人の黒井 健さんがおっしゃるには、太田大八さんは絵本作家の社会的地位の向上を常に模索されていたと言います。
 ほんの一部の「絵本読み聞かせ・朗読家・評論家」なのでしょうが(これは日本画においては「画商・絵画評論家」等に当たります)、自分達が絵本作家を宣伝してやって育ててやっていると言ったかのような錯覚をお持ちの方がおります。確かに「絵本読み聞かせ・朗読家」は作家にとっても有難い存在ですし、大切なご活動だと理解しています。ただその作家と朗読家の関係は常に対等な互恵関係であり、お互いを尊重せねばなりません。ただ、作品を最初に生み出すのは作家であり、それを後から活用するのが朗読家であるという順序や本質を忘れないでほしいと思います。

 私の伯父・後藤大秀「からくり人形師」ですが、現在、公に認められた「からくり人形師」は日本に3名しかいないと言います。伯父の手腕は私が見ても驚くほど高レベルで、創作出来る人が限られたとても重要な仕事ですが、その業界規模は小さいものなのです。伯父は1998年に大垣市の教育功労賞表彰を受け、ようやく現在、県の表彰が検討されている段階だと言います。からくり人形師が人間国宝(重要無形文化財保持者)や文化功労者等の国単位で認定される事はなかなか難しい話です。
 私は大学3年生から2006年ごろまでの約12年間、日本画の仕事のかたわらに「金唐革紙(きんからかわし)」という手作りの高級壁紙の復元製作を手掛けていました(旧岩崎邸、孫文記念館、入船山記念館 等の復元事業に参加)。日本画だけで食べて行くのは大多数の若手作家にとって、今の時代では至難の業なので、講師等の何らかの副業をしなければ生きて行けないのです。最初に金唐革紙製作所の出資・経営者がいたのですが、その人は外回りだけして滅多に製作をしないので、私達、美大出身者3~6名がほとんどの実質的な仕事をしていました。その中でも私は歴も長く、製作数もずば抜けて多かったので、常に中心的な役割を担って来ました。現在、復元された金唐革紙には、ほぼ私の手が入っており、実質的な第一人者と言えます。それにもかかわらず、世間的にはその経営者が全ての復元をしたように喧伝されており、現在、80歳位のその人だけが「国選定保存技術保持者」に認定され、旭日双光章なる国の勲章までもらっています。つまり本質的には、私が「保存技術保持者・旭日双光章」をいただいてもおかしくないという事になります。
 このように業界団体の社会的強弱や、メディア等での取り上げ頻度が、国や世間の評価にも如実に反映されているのです。


 私は日本画の世界で長年活動して来ましたが、そこではあまりに高過ぎる権威が近年になるほどマイナス効果を出している事に気が付きました。権威に頼るあまりに、さほど絵の良くもない人が人脈だけで出世していくさまを幾多見て来ました。その弊害によって現代日本画のレベルは落ちる方向にあり、愛好者・コレクターの高年齢化に伴って一般大衆からの人気は低迷の一途をたどっています。ただし私は、日本画の画材の持つ面白さや、古代(日本画という名のできる前)からの日本絵画の深い歴史に大いに憧れを持っており、未来への可能性を疑っていません。しかし、今のような日本画三大派閥(院展、日展、創画展)のみが優位性を保つような閉鎖的な風潮が続くと、かならず近い将来(15~30年後位)立ち行かなくなるでしょう。今、日本画界も大きな変革期・転換期を迎えているのです。作家が権威を欲した時から、実質的な制作力は落ちて行く・・・とも言いますので、名と実のバランスは難しいところですが、そうであってもあまりに不公平が多いのが今の世の中です。
 欧米や一部の東洋圏では「絵描き・画家」を社会が認め、ある程度の優遇措置もあり、重要で尊敬に値すべき存在として位置づけされています。私は何も、絵描きが いばりたい と言っている訳ではなく、今の絵描き仲間の現状を見る限り、一部の特別な売れっ子以外は、一般サラリーマンよりはるかに少ない収入に甘んじて、「仕事が無い、仕事が無い」を口癖のように発しているこの状態は、決して日本経済にとっても良い事ではないと思っているのです。仕事の出来る、腕の良い作家は、たくさん世の中に埋もれています。それを社会がもっと活用しない手はないのです。

 最近、国も「ものづくり日本」を掲げています。全ての物事は創作者から発せられ、それを一般の消費者・愛好者・活用者が用いて行くのです。最初の文化創作者が軽んじられるようでは、日本の文化は発展・成熟しませんし、将来、衰微していくものと考えられます。また、マンガ・アニメ・ゲームは現在最高潮に活気を呈していますが、そのようなサブカルチャー(現在では、メインカルチャーと言ってもいいほどですが)だけではなく、伝統的な絵画・芸術を含めて総合的に日本文化が向上し、一般に認識されるのが理想なのです。
 日本は(世界的にも同様の傾向でしょうが)創作者・作家・職人よりも、それを発注した資産家・経営者・団体等の中間卸的存在を重要視する傾向が強いのです。最初の創作者が・・・特に多くの若い作家が仕事だけで食べて行けない現状では、決して良い文化は華開かないでしょうし、そのような状態が続くと、ひいては日本経済全体の活力低下にもつながって行くと考えています。日本の国も公共団体も民間団体・企業も一般大衆も、もっと絵描き・創作者の重要性を知って下さい。それが一絵描きの率直なお願いです。

  日本画家・絵本画家 後藤 仁

 

犬になった王子――チベットの民話/岩波書店

¥1,944
Amazon.co.jp
関連記事
スポンサーサイト



テーマ : お知らせ
ジャンル : 学問・文化・芸術

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

後藤 仁 プロフィール

後藤 仁(JIN GOTO、后藤 仁、고토 진)

Author:後藤 仁(JIN GOTO、后藤 仁、고토 진)
~後藤 仁 公式ブログ1~
絵師〈日本画家・絵本画家、天井画・金唐革紙制作〉後藤 仁(JIN GOTO、后藤 仁、고토 진)の日本画制作、絵本原画制作、写生旅行、展覧会などのご案内を日誌につづります。

【後藤 仁 略歴】
 師系は、山本丘人(文化勲章受章者)、小茂田青樹(武蔵野美術大学教授)、田中青坪(東京藝術大学名誉教授)、後藤純男(日本芸術院賞・恩賜賞受賞者)。
 アジアや日本各地に取材した「アジアの美人画/日本の美人画」を中心画題として、人物画、風景画、花鳥画などを日本画で描く。また、日本画の技術を応用して、手製高級壁紙の金唐革紙(きんからかわし/国選定保存技術)や、大垣祭り(ユネスコ無形文化遺産)の天井画、絵本の原画などの制作を行う。
 国立大学法人 東京藝術大学 デザイン科 非常勤(ゲスト)講師(2017~21年度)。学校法人桑沢学園 東京造形大学 絵本講師(2017~18年度)。日本美術家連盟 会員(推薦者:中島千波先生)、日本中国文化交流協会 会員、絵本学会 会員。
    *
 1968年兵庫県赤穂市生まれ。15歳、大阪市立工芸高校 美術科で日本画を始める。東京藝術大学 絵画科日本画専攻 卒業、後藤純男先生(日本芸術院賞・恩賜賞受賞者)に師事。在学中より約12年間、旧岩崎邸、入船山記念館、孫文記念館(移情閣)等の金唐革紙(手製高級壁紙)の全復元を行う。
 卒業以降は日本画家として活動し、日本・中国・インドをはじめ世界各地に取材した「アジアの美人画/日本の美人画」をテーマとする作品を描き、国内外で展覧会を開催する。近年は「絵本」の原画制作に力を入れる。
 2023年、大垣祭り(ユネスコ無形文化遺産)天井画『黒龍と四つ姫の図』を制作奉納する。

○絵本作品に『ながいかみのむすめチャンファメイ』(福音館書店)、『犬になった王子 チベットの民話』(岩波書店)、『わかがえりのみず』(鈴木出版)、『金色の鹿』(子供教育出版)、『青蛙緑馬』(浙江少年児童出版社/中国)。挿絵作品に『おしゃかさま物語』(佼成出版社)。
 『犬になった王子 チベットの民話』は、Internationale Jugendbibliothek München ミュンヘン国際児童図書館(ドイツ)の「The White Ravens 2014/ザ・ホワイト・レイブンス 国際推薦児童図書目録2014」に選定される。また、宮崎 駿 氏の絵物語「シュナの旅」の原話になった事でも知られている。
○NHK日曜美術館の取材協力他、テレビ・新聞・専門誌・インターネットサイト等への出演・掲載も多い。

★現在、日本国内向けと、中国向けの「絵本」を制作中です~❣

最新記事
カテゴリ
最新コメント
月別アーカイブ
最新トラックバック
カウンター
後藤 仁 アルバム
後藤 仁のアルバムを掲載いたします。
フリーエリア
フェイスブック 後藤 仁 Jin Goto


フェイスブックページ「絵師、日本画家・絵本画家 後藤 仁」 | 


フェイスブックページ「ながいかみのむすめチャンファメイ」 | 


フェイスブックページ「犬になった王子 チベットの民話」 | 







ブクログ「後藤 仁の本棚」ブクログ

絵本ナビ「犬になった王子  チベットの民話」絵本ナビ「犬になった王子 チベットの民話」
絵:後藤 仁 /文:君島 久子 /出版社:岩波書店絵本ナビ


検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR