2016-07-09

スリランカ写生旅行 その2

 「スリランカ写生旅行」3日目、2016年6月8日(水)。今日は、スリランカを代表する絵本作家のシビル・ウェッタシンハ(Sybil Wettasinghe)さん にお会いする予定です。この計画は、今回の旅の大きな目的の一つで、とても楽しみです。

 ・・・日本で旅行準備をしている時に、こんな事がありました。・・・・ 海外旅行では長くアトリエを空けますので(管理者はいますが)、仕事関係等の各方面にご連絡をします。また、私にとっての”長旅”というものは、一種の再生儀礼のようなもので、「一度死んで、生まれ変わる」というニュアンスを持っているのです。大げさに聞こえるかも知れませんが、場合によっては本当に日本に帰れない事態になるかも知れないという覚悟もあります。
 そんな対応に奔走していた旅行の5日位前に、絵本作家の長野ヒデ子さんにご連絡する機会があり、スリランカに行く事をお伝えすると、「私がファンの絵本作家、シビル・ウェッタシンハさんにお会いして来たら良いですよ・・・。」というアドバイスを受けました。私は「絵本」の世界は3年余りと経験が少ない故、まだまだ知らない絵本作家も多いのです。(歴史上の画家や日本画家や純粋美術の作家はかなりよく知っています。) シビル・ウェッタシンハさんも作品の表紙を少し見た事がある位でした。こんな機会に勉強しなくてはいけません。こうして、ここ数年間に膨大な量の「絵本」関係の知識を増やして来ました、多分、誰よりも旺盛に・・・。
 まずは、近くの大きな図書館(葛飾区立中央図書館)に置いてあるシビル・ウェッタシンハさんの作品を全て読みました。そして日がないので、教文館ナルニア国にシビル・ウェッタシンハさんの代表作『きつねのホイティ』(福音館書店)を注文して送ってもらう事にしました。その時、教文館の個展でもお世話になった店長さんが、『わたしのなかの子ども』(松岡享子 訳/福音館書店)というシビル・ウェッタシンハさんの随筆が素晴らしいとおすすめいただきました。松岡享子先生とも多少のご縁がありましたし、児童書に詳しい店長を信じて、その本も取り寄せる事にしました。
 ところで、シビル・ウェッタシンハさんに会うと言っても、どこにどうしていらっしゃるかも分かりません。こんな時には私の果敢な行動力がものを言いますが、今の時代にはインターネットという魔物(人類にとって一見便利だが、最も危険でもある代物)があります。シビル・ウェッタシンハさんが、スランガニ基金(Surangani Voluntary Services 〈SVS〉)というボランティア団体の顧問のような事をされていると分かると、早速、スランガニ基金に連絡を取り、スリランカで8日にお会いする計画を整えました。(ただし、シビル・ウェッタシンハさんも著名な方ですし、お忙しい事でしょうから、どなたでもお会いできるという訳ではない事をご承知おき下さい。) ・・・・・

 朝食をパンで済ませて、スランガニ基金を訪問する10時までには時間があるので、コロンボのペター地区を散策します。コロンボ・フォート駅を過ぎてバスターミナルまでの間に大きな本屋があります。M.D.GUNASENA BOOKSHOPという書店ですが、日本で言えば紀伊国屋書店等にあたるスリランカで最も大きな書店らしいです。4階建て位でかなり多くの本が置いてあります。1階が児童書の売り場です。日本をはじめとする外国の「絵本」は見られず、薄い表紙のスリランカの「絵本」しか置いてありません。内容はともかく、印刷品質は日本等と比べると決して高いとは言えないレベルです。ただ、東南アジア・中華人民共和国等の大型書店を幾つか見て来ましたが、それらと比べてもここは「絵本・児童書」の数は相当多い方です。それだけ児童教育等にも力を入れようという方向性がうかがえます。(ただし、この後、地方でも書店・図書館を探しましたが、まれに小さな店があるだけで全く充実はしていません。)店員にシビル・ウェッタシンハさんの絵本はあるかと聞くと、大きな棚の全てがシビル・ウェッタシンハさんのコーナーでした。やはり、スリランカでもよく知られた絵本作家なのです。サインを入れていただく為と、旅の途中で読む為に、日本から『わたしのなかの子ども』を持参していたのですが、この書店でもシビル・ウェッタシンハさんの絵本を5冊買い込みました(5冊で1170Rs)。
 ペター地区にジャミ・ウル・アルファー・モスクというイスラム教の巨大なモスクがあるので見学しました。白と赤の石で組み合わされた面白いデザインの建物です。今のところスリランカでは、上座部仏教(南伝仏教)をはじめヒンズー教、イスラム教、キリスト教が混在し、うまく調和を保って存在しています。

スリランカ旅行M.D.GUNASENA BOOKSHOP(コロンボ) シビル・ウェッタシンハさんの絵本コーナー。数10冊~100冊はあります。(書店員の許可を得て撮影)

スリランカ旅行ジャミ・ウル・アルファー・モスク(コロンボ)

 9時になりましたのでスリーウィーラーを捕まえて足代700Rsで手を打って、コロンボ郊外のスランガニ基金まで向かいました。少し道に迷いながら、10時過ぎに到着しました。
 スランガニ基金の代表・創設者は日本の方で、馬場繁子さんです。この方を中心にスリランカのスタッフとともに、内戦中の困難な時代から長い期間、スリランカで有益なボランティア活動をされて来られたという事です。誠に頭が下がります。特に、子供達へ「絵本」を届ける活動に力を入れられている事に共感しました。馬場さんは、穏やかな物腰の裏に、強い意志力の感じる人でした。団体の活動状況のお話や写真や職場を一通り拝見し、ここなら信頼がおけるだろうと判断し、日本で構想していた「スリランカへの絵本寄贈計画」をスランガニ基金にゆだねる事に決めました。
 スランガニ基金では、寄付以外のボランティア活動の資金調達や絵本普及の為に、シビル・ウェッタシンハさんや一部の日本の絵本をスリランカのシンハラ語に訳して出版したりもしているそうですが、スリランカの出版業界はあまり発達しておらず、有力な出版社も少なく、特に出版卸業・流通は未整備のようです。そこで基金が独自に印刷して、直接、M.D.GUNASENA BOOKSHOP等の大型書店に持ち込むのだそうですが、半分ほどのマージンを取られるので、なかなか大変だという話です。

 そこから車で移動し、シビル・ウェッタシンハさんのアトリエに着きました。シビル・ウェッタシンハさんはそのユニークな作風を彷彿とさせる、優しそうでおおらかな雰囲気を持った方でした。ご年齢は88歳位ですが、とてもお元気で好奇心の旺盛な方です。馬場さんの通訳でお話をし、絵本を多数見せていただき、今制作中の福音館書店の絵本の制作状況をアトリエで見学できました。アトリエに人を入れたがらない作家も多いですので、これは実に貴重な体験です。
 その後、昼食をごちそうになりました。手作りのスリランカ料理はとても美味しいのです。シビル・ウェッタシンハさんに饗応いただけるという事もあるでしょうが、今回のスリランカの旅で最も美味しかったです。(ちなみに、スリランカの食事は基本、毎日カレーです。)
 日本から持参したり現地で購入した「絵本」にサインを入れていただいた他、シビル・ウェッタシンハさんから6冊も「絵本」をプレゼントしていただきサインももらいました。これは、絵描きにとって一生の宝物です。旅の途上にて少々重たいですが、我慢ができるというものです。
 私からも、シビル・ウェッタシンハさんとスランガニ基金に、絵本『ながいかみのむすめチャンファメイ』(福音館書店こどものとも)『おしゃかさま物語』(佼成出版社)をプレセントしました。また、日本から絵本『犬になった王子 チベットの民話』(岩波書店)等をお贈りする約束をしました。
 こうして充実した時間はあっという間に過ぎ、スリーウィーラーで宿に帰りました。帰りは、シビル・ウェッタシンハさんのアトリエからなので行きより遠かったのですが、メーターで行くと650Rsですみました。馬場さんがおっしゃるには、スリーウィーラーはメーター付きならメーターで行った方が安いとの事です。

 この日の夕食は、「ピラウ」のフィッシュコットゥ(320Rs)とラッシー(180Rs)を取り、(コットゥというのは、小麦粉とココナッツを混ぜて焼いて作ったゴーダンバ・ロティを刻んで、野菜・肉等と一緒に炒めた料理)、シビル・ウェッタシンハさんの『わたしのなかの子ども』を読みながら眠りにつきました。毎日、テレビもない孤独な宿で、夜はこの本を読むのが日課となりました。古き良きスリランカが描かれており、シビル・ウェッタシンハさんの挿絵も面白く、今回の旅のお供にぴったりでした。千夜一夜物語の如く止めどなく流れる物語の、ゆったりとした時間が、実に心地よいのです・・・。

スリランカ旅行スランガニ基金(コロンボ) 活動報告の写真。左下に、児童施設へ寄贈する「絵本セット」が写っています。

スリランカ旅行スランガニ基金の皆様と。 右から2人目が馬場繁子さん、中央が私。

スリランカ旅行シビル・ウェッタシンハさんのアトリエ(コロンボ) シビル・ウェッタシンハさんに、描く様子を見せていただきました。これから日本で出版される予定の、福音館書店の最新作だそうです。

スリランカ旅行スリランカ・カレーをいただきました。本当に美味しかったネ~ ( ^^) _U~~

スリランカ旅行シビル・ウェッタシンハさん、スランガニ基金・馬場繁子さん、と私

 旅行4日目、6月9日(木)。この日はキャンディに移動します。朝食は大体パンで済まします。7:00コロンボ発の国営ノーマルバス、キャンディ行き(150Rs)。11:00にキャンディのメインバスターミナルに到着しました。スリランカのバスは古いものが多く、あまり快適とは言えませんが、スリランカの国内移動には安くて便利です。
 最初、宿とは逆方向に歩いてしまい随分大回りをして宿に着きました。この季節、コロンボやキャンディは、毎日、短時間の雨が降りますが、それ以外は日差しが強くて結構暑いのです。ガイドブック(地球の歩き方)で見当を付けておいた「オールド・エンパイア・ホテル」で、一泊1400Rsのシングルルームに4泊しました。トイレ・シャワーは共用です。コーヒー工場を19世紀にホテルに改装した歴史あるホテルという事で、小さくて古いながらに雰囲気があります。ちなみに、スリランカでは「ホテル」というのは安い大衆食堂をさす場合が多いのでややこしいのです。
 昼食は近くの「ミッドランズ・デリ」で、チキンカレー(200Rs)、パパイヤジュース(200Rs)、サービス料(50Rs)の計450Rsで取りました。
 この頃少しのどが痛くなって来ました。寝る時にはファン(天井に付いた巨大な扇風機。アジアのホテルには大体これが付いていますが、回ると結構うるさいのが難点です。)を消すのですが、それ以外は常時付けているので、空中のほこりや大気汚染も伴って、旅行の初期にのどを痛めるケースが多いです。午後は、市場で買った果物の女王・マンゴスチンを食べる前にSM号にスケッチ。キャンディ湖周囲を軽く散歩して、湖をSM号にスケッチ。夕食は、昼と同じ食堂のケーキセット(300Rs)で軽く済ませました。ここで無理をすると後にこたえます。
 夜、何かカリカリ音がするのでゴミ箱の下を見ると、蛇も虫も人もお化けも少々の危険も孤独も・・・大概の事は平気な私が唯一何故かしら好きになれない、あの黒光りする虫がいました。ごみ箱を遠ざけ、パン等の食料をビニールに入れてつり下げました。アジアの安宿ではアリや黒虫が出るので、食料を机の上等に置かずに、出来るだけ虫が付きにくいようにフックにつり下げておくという処置も必須です。あと、安宿の扉など簡単にぶち破れるので、寝る前に扉の前には椅子等を置いておきます。ただの気休めですが、何者かが突入して来たとしても、音で気が付く可能性が高くなるのです。自前の南京錠も忘れないように・・・。私が経験上編み出した、旅のミニ知識です。
 黒虫はいやだな~と思いつつも、『わたしのなかの子ども』を読みつつ、夢の中に入って行きました。


 明日は、スリランカの古都、キャンディの街を歩きます。この様子はまた次回といたしましょう。

  日本画家・絵本画家 後藤 仁


スリランカ旅行「ミッドランズ・デリ」 チキンカレー(200Rs)、パパイヤジュース(200Rs)



犬になった王子――チベットの民話/岩波書店

¥1,944
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プロフィール

後藤 仁(GOTO JIN)

Author:後藤 仁(GOTO JIN)
 ~後藤 仁 公式ブログ1~
日本画家・絵本画家 後藤 仁(GOTO JIN)の日本画制作、絵本原画制作、写生旅行、展覧会などのご案内を日誌につづります。

  〔後藤 仁 略歴〕
1968年兵庫県赤穂市生まれ。15歳、大阪市立工芸高校美術科で日本画を始める。東京藝術大学絵画科日本画専攻卒業、後藤純男先生(恩賜賞受賞者)に師事。在学中より約12年間、旧岩崎邸、入船山記念館、孫文記念館(移情閣)等の金唐革紙(手製高級壁紙)の全復元を行う。卒業以降は日本画家として活動し、中国・インドをはじめ世界各地に取材した「アジアの美人画」をテーマとする作品を描き、国内外で展覧会を開催する。近年は絵本の原画制作に力を入れる。絵本作品に『ながいかみのむすめチャンファメイ』(福音館書店)、『犬になった王子 チベットの民話』(岩波書店)、挿絵作品に『おしゃかさま物語』(佼成出版社)。『犬になった王子 チベットの民話』は、Internationale Jugendbibliothek München ミュンヘン国際児童図書館(ドイツ)の「The White Ravens 2014/ザ・ホワイト・レイブンス 国際推薦児童図書目録2014」に選定される。NHK日曜美術館の取材協力他、テレビ・新聞等への出演・掲載も多い。東京造形大学・絵本講師。金唐革紙保存会 主宰。日本児童出版美術家連盟(童美連)(太田大八先生、赤羽末吉先生、いわさきちひろ先生らが創設)会員・理事。絵本学会(太田大八先生らが創設、現会長:松本 猛先生)会員。日本中国文化交流協会(井上 靖先生らが創設)会員。この本だいすきの会(代表:小松崎 進先生)会員。千葉県松戸市在住。

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絵:後藤 仁 /文:君島 久子 /出版社:岩波書店絵本ナビ


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