2016-03-14

日本画・絵本界の著作権問題について考える

 最近、オリンピックのエンブレム問題や、理研のSTAP細胞問題など、著作権文章・画像コピーについて世間で話題となるケースが増えました。  
 私も、絵本の世界に入って「著作権」について考える機会が多くなりましたが、「日本画」の世界で長年描いてきて、避けて通れない一つの大きな著作権問題があります。日本画家で知らない人はいないくらい有名な話ですが、現在でも日本画界では(特に院展では)タブー視されていて、公で話すのをためらう話です。この事件は、作家が著作権侵害されたのではなく、作家が著作権侵害をおかしてしまった代表例です。

               *

 時は、私がまだ美術高校に通っていた頃です(30年くらい前)。当時、日本画壇は、日展の東山魁夷先生、院展(日本美術院展)の平山郁夫先生などの人気作家を輩出し、一般大衆の一定の支持もありました。しかし、時代の流れの中、じょじょに日本画界の勢いは弱まり、世間では日本画・油彩画などの純粋美術から、現代アートや、マンガ・アニメ・ゲームといったサブカルチャーに文化の中心が移りつつありました。
 そんな中、久しぶりに世間を賑わした日本画の話題が、その著作権問題でした。
 当時、平山郁夫先生の後継者として最も有力視され、実力・人気ともに絶頂にあったS先生が、テレビや新聞で一斉に報道されました。久々に世間の話題に上った日本画の話題は、事もあろうにマイナスの話題・・・「著名日本画家が、外国の写真家の作品をまるまるそのままコピーして、作品に描いていた」・・・という衝撃的なものでした。これが今のネット時代でなくて良かったと思います。もし今なら、どれくらいネット上でバッシングされた事でしょうか。
 これによってS先生は東京藝術大学の教授を辞し、平山郁夫先生が弟子の不始末をテレビや新聞でお詫びするという事態になり、周囲に様々な禍根を残しました。S先生自体は相当の売れっ子だったので、その後もご活躍されていますが、一時の勢いはそがれ、代わりに院展・東京藝術大学では、T・T先生、M先生、F先生、T・Y先生などが、最有力でご活躍されるきっかけになったと思います。

 私が思うには、その個人問題よりも深刻なのは、それ以降、「日本画はそんな世界なのか・・・」という認識が世間に浸透したという事実です。それでなくても、以前から日展・院展などの審査の不透明性(審査結果が前もって決まっているのではないか、など)が噂されてきましたから、この事件がとどめを刺したように思います。
 その後も日本画壇では売れっ子もいますし著名作家もいますが、世間の「日本画」の認知度・人気は低迷し、閉塞的に業界内だけで世界が完結してしまう感がぬぐえません。唯一、現代アート的に活動する千住 博先生が、傑出して目立っていますが・・・。
 時代の流れの必然もありますが、この事件が日本画界の今日の不振を助長した事は確かでしょう。

 その後も、平山郁夫先生ご自身のトンボを描いた絵は、岩橋英遠先生のまねではないか等の憶測が美術界で飛び交いました。私は、その作品より、平山先生の代表テーマのラクダの絵は、岩橋英遠先生のエジプト・ファラオの絵のラクダにそっくりだなと思っていました。しかし、これらの平山先生の絵は独自に十分アレンジされており、オマージュの範囲内だと思います。
 近年でも、院展のU先生が、有名な写真家の竹内敏信氏の作品をまるまるコピーして描いているのを私の友人が発見して、「これってまずいんじゃない・・・。」となった事があります。ただ、この件は公にはなっていません。

               *

 作家が著作権侵害されるケースも多々あり、私も最近、「絵本」を出すようになり、その対応に苦慮する事が多くなりましたが、逆に作家側が著作権侵害をする場合もあり、それをきっかけに業界全体にダメージを与える可能性もあるので、私達作り手も肝に銘じて、愚直に制作に望まなくてはいけないという事です。
 取材には自分の足を使い、制作の基本として自分がスケッチし写真に撮ったものを用い、もし他人の写真などを使う場合、あくまで参考の範囲内にとどめるという心がけが必須です。楽をして制作しようなどと考えていたら、決して良い作品は描けませんし、文化は退廃していくばかりなのです。

  日本画家・絵本画家 後藤 仁

関連記事
スポンサーサイト

テーマ : 絵画・美術
ジャンル : 学問・文化・芸術

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

後藤 仁(GOTO JIN)

Author:後藤 仁(GOTO JIN)
 ~後藤 仁 公式ブログ1~
日本画家・絵本画家 後藤 仁(GOTO JIN)の日本画制作、絵本原画制作、写生旅行、展覧会などのご案内を日誌につづります。

  〔後藤 仁 略歴〕
1968年兵庫県赤穂市生まれ。15歳、大阪市立工芸高校美術科で日本画を始める。東京藝術大学絵画科日本画専攻卒業、後藤純男先生(恩賜賞受賞者)に師事。在学中より約12年間、旧岩崎邸、入船山記念館、孫文記念館(移情閣)等の金唐革紙(手製高級壁紙)の全復元を行う。卒業以降は日本画家として活動し、中国・インドをはじめ世界各地に取材した「アジアの美人画」をテーマとする作品を描き、国内外で展覧会を開催する。近年は絵本の原画制作に力を入れる。
○絵本作品に『ながいかみのむすめチャンファメイ』(福音館書店)、『犬になった王子 チベットの民話』(岩波書店)、『わかがえりのみず』(鈴木出版)、挿絵作品に『おしゃかさま物語』(佼成出版社)。『犬になった王子 チベットの民話』は、Internationale Jugendbibliothek München ミュンヘン国際児童図書館(ドイツ)の「The White Ravens 2014/ザ・ホワイト・レイブンス 国際推薦児童図書目録2014」に選定される。NHK日曜美術館の取材協力他、テレビ・新聞等への出演・掲載も多い。
○東京藝術大学・デザイン科非常勤講師。東京造形大学・絵本講師。金唐革紙保存会 主宰。日本児童出版美術家連盟(童美連)(太田大八先生、赤羽末吉先生、いわさきちひろ先生らが創設)会員・理事。絵本学会(太田大八先生らが創設、現会長:松本 猛先生)会員。日本中国文化交流協会(井上 靖先生らが創設)会員。この本だいすきの会(代表:小松崎 進先生)会員。千葉県松戸市在住。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
カウンター
後藤 仁 アルバム
後藤 仁のアルバムを掲載いたします。
フリーエリア
フェイスブック 後藤 仁 Jin Goto


フェイスブックページ「日本画家・絵本画家 後藤 仁」 | 


フェイスブックページ「ながいかみのむすめチャンファメイ」 | 


フェイスブックページ「犬になった王子 チベットの民話」 | 




Find me on Google+(グーグルプラス「後藤 仁」へ)




ブクログ「後藤 仁の本棚」ブクログ

絵本ナビ「犬になった王子  チベットの民話」絵本ナビ「犬になった王子 チベットの民話」
絵:後藤 仁 /文:君島 久子 /出版社:岩波書店絵本ナビ


検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR