2015-06-22

和歌山県~兵庫県 写生旅行(2015年5月)その4 〈最終回〉

 2015年5月16日。この日は、私の生まれ故郷、赤穂市坂越(さこし)を散策します。私はここ坂越の小さな集落に生まれ、小学校1年生の夏休みに大阪府堺市 泉北ニュータウンに引っ越すまで、この地で幼少期を過ごしました。人の一生から見れば短い期間ですが、私の感性を育てた私にとって最も凝縮された大切な期間です。
 保育所に通っていた位に小さな頃・・・多分3歳頃に父と登った、あの山坂道をもう一度登ってみる事にしました。ここには大人になってからも故郷に帰る度に何度となく登っているのですが、何度登ってもなつかしさと充足感に満ちあふれるのです。いつかここを舞台にした絵本を描いてみたいと、いつも心の中でつぶやいています。

 赤穂市中心部から車で10分足らずで坂越に到着します。まずは大避神社(おおさけじんじゃ)に向かいます。この神社は昔から海の航海安全を祈願した所で、拝殿わきの回廊には多くの絵馬がかかっており帆船を描いた絵もあります。子供の頃にはここの巨大な絵馬を見て大いに興味を持ったものです。

兵庫の旅 大避神社大避神社 参道 (春には桜がきれいに咲きます) (坂越)

 大避神社の境内左奥から山に通じる小道が伸びており、ここから神社の裏山、茶臼山山頂を目指すのです。けもの避けの柵を越えて薄暗い林道を通ります。児島高徳(こじまたかのり)卿墳墓等を抜けて、宝珠山妙見寺観音堂に着きます。観音堂の蟇股(かえるまた)には十二支の動物が彫られていて楽しいですし、懸造り(かけづくり)の舞台からは美しい坂越湾が望めます。私も障壁画制作に加わったNHK大河ドラマ「元禄繚乱(げんろくりょうらん)」の撮影では、5代目中村勘九郎(のちの18代目中村勘三郎)が、ここから坂越湾を眺める大石内蔵助を演じました。

兵庫の旅 宝珠山妙見寺観音堂宝珠山妙見寺観音堂の裏手から坂越湾を望む (坂越)

 宝珠山奥の院を越え、所々にツツジの咲き石仏が鎮座した山坂道を更に登ると、30分足らずで茶臼山山頂に到着します。今になれば大した距離もない小さな山ですが、幼い頃、父に手を引かれて登ったこの山は、それはそれは高い山に感じられ、幼い私には大きな冒険だった事を今でもはっきりと記憶しています。
 山頂には幼少期の当時からNHKの電波塔が建っていて、風情はないのですが印象深い光景になっています。塔の周辺にはツツジが満開で良い香りがただよっていました。山頂から坂越湾の生島(いきしま)が一望でき、素晴らしい光景です。私の最も好きな地球上の光景の一つです。子供の頃の私達は生島を「ひょうたん島」と呼んでいたのですが、ひょうたんの様な面白い形をしています。

兵庫の旅 生島茶臼山山頂から望む 国の天然記念物・生島 (坂越)

 生島方面を1時間弱スケッチして、昼食のパンをかじって、下山しました。山の尾根を進むと宝珠山山頂にも至るのですが、今回は行きませんでした。裏手の山道を下りると、赤穂市街から清流・千種川(ちくさがわ)も見渡せます。足下には、子供の頃に通った坂越幼稚園と坂越小学校が当時とほとんど変わらない様子で見え懐かしい限りですが、子供の頃に父とよく行った銭湯も駄菓子屋も今はもうありません・・・。

兵庫の旅 赤穂市街茶臼山から赤穂市街・千種川方面を望む 木々の間からわずかに坂越幼稚園と坂越小学校が見えます

 坂越湾岸辺に下りた私は、しばらく波音を聴きながら生島をぼんやりと見つめていました。その後、旧坂越浦会所(幼少期の私はここで予防接種を受けたそうです。)を見学し、坂越の大道(だいどう)を通り、奥藤酒造郷土館、坂越まち並み館を見て、坂越幼稚園辺りまで来ました。幼稚園・小学校は本当に当時のままの姿です。この幼稚園では誕生日に絵本が一冊もらえたので、それが何よりの楽しみでした。私が絵を描くのを好きになったのは、この辺りの影響も強いと思います。園庭でカメをはなして、みんなで絵を描いた事を昨日の様に覚えています。それにしても子供の頃の私は本当にワンパク小僧で、近所の子供とケンカをしたり、一日中外で泥んこになって遊んだものです。私が育った長屋風の借家も、日々通った銭湯も、楽しみだった2件の小さな駄菓子屋「ワタダ」と「ムレヤ」も、砂ぼこりだらけの路地も・・・今はありませんが、まぶたの裏にはしっかりと存在が刻まれています。ここの光景を眺めていると、なつかしさでいつも涙が出そうになるので、来た道を引き返しました。
 旧坂越浦会所の外観を1時間余りスケッチして赤穂市街に戻り、赤穂城跡の本丸門上層部屋が特別公開されていたので見学して一日を終えました。

 翌日17日には新幹線で松戸に帰り、こうして、「後藤 仁 絵本原画展」(ちいさな駅美術館、和歌山県有田川町)から始まる、一週間余りの「和歌山県~兵庫県の旅」が終わりました。
 今年の秋頃には本格的な東北写生旅行を計画しています。来年はまた海外写生旅行にも出かけたいものです。こうして私の旅の人生は続くのです。
  日本画家・絵本画家 後藤 仁

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No title

 お主は私の正体を詮索せずともよいが、
 件の園庭にて、お主が、見つけた”モグラ”を先生に見せた時の、先生の驚いた顔は、我々天狗仲間の間では今も語り草なのじゃよ。
 人に見えにくいものが、お主には見えとるのじゃろうのう(^^)/

Re: No title

鴉天狗 様。コメント有難うございます。まさに天狗の千里眼と言えましょうか。確かにモグラ事件はかすかに覚えています。絵描きは人並み外れた観察力・好奇心がなければつとまりません。私も子供の頃から色々な事に興味を持つ性質だったのかも知れません。 後藤 仁
プロフィール

後藤 仁(GOTO JIN)

Author:後藤 仁(GOTO JIN)
 ~後藤 仁 公式ブログ1~
日本画家・絵本画家 後藤 仁(GOTO JIN)の日本画制作、絵本原画制作、写生旅行、展覧会などのご案内を日誌につづります。

  〔後藤 仁 略歴〕
1968年兵庫県赤穂市生まれ。15歳、大阪市立工芸高校美術科で日本画を始める。東京藝術大学絵画科日本画専攻卒業、後藤純男先生(恩賜賞受賞者)に師事。在学中より約12年間、旧岩崎邸、入船山記念館、孫文記念館(移情閣)等の金唐革紙(手製高級壁紙)の全復元を行う。卒業以降は日本画家として活動し、中国・インドをはじめ世界各地に取材した「アジアの美人画」をテーマとする作品を描き、国内外で展覧会を開催する。近年は絵本の原画制作に力を入れる。絵本作品に『ながいかみのむすめチャンファメイ』(福音館書店)、『犬になった王子 チベットの民話』(岩波書店)、挿絵作品に『おしゃかさま物語』(佼成出版社)。『犬になった王子 チベットの民話』は、Internationale Jugendbibliothek München ミュンヘン国際児童図書館(ドイツ)の「The White Ravens 2014/ザ・ホワイト・レイブンス 国際推薦児童図書目録2014」に選定される。NHK日曜美術館の取材協力他、テレビ・新聞等への出演・掲載も多い。東京造形大学・絵本講師。金唐革紙保存会 主宰。日本児童出版美術家連盟(童美連)(太田大八先生、赤羽末吉先生、いわさきちひろ先生らが創設)会員・理事。絵本学会(太田大八先生らが創設、現会長:松本 猛先生)会員。日本中国文化交流協会(井上 靖先生らが創設)会員。この本だいすきの会(代表:小松崎 進先生)会員。千葉県松戸市在住。

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