2021-07-25
大垣祭り・中町 布袋軕 天井画(天井絵)制作〈その3〉、エスキース/ドーサ引き
天井画(天井絵)制作
絵師(日本画家・絵本画家) 後藤 仁、GOTO JIN
(※フェイスブック Facebook に記述した内容から、今回、エスキースとドーサ引きの工程をまとめています。)
2021年7月12日(月)
実際に杉板が届くまでは画面の状態を把握できないので、これまでは、ぼちぼちと絵のイメージ作りをしてきました。先日、いよいよ杉板が届きましたので、イメージも一気に固まってきました。
今日から「小下図(縮小サイズの下図)」の制作に入り、1~2週間ほどかけて、じっくりと練り込んでいこうと思います。近年は絵本原画の小さな画面に向かう事が多いので、久しぶりの大きめの画面に、腕が鳴りますね~!! 良い案がどんどん浮かんでおりますよ~。 !(^^)!
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7月12日(月)~13日(火)の2日間で、「天井画」の原案を元に、簡単な「エスキース(簡易的な下図)」を2枚描いてみました。最初に話をいただいてから、かなりの時間があったので、その間に、絵のイメージを頭に思い浮かべ、資料等をそろえてきました。そんな訳で、今回のエスキースはすぐに描けるのです~。エスキースの前に、龍作画の補強の為に、動物園に蛇やワニのスケッチに行きたかったのですが、今はコロナ禍で難しいので、以前、取材したスケッチや写真資料を参考にしたいと思います。
「天井画」の原案は何パターンかありましたが、最終的にこの方向で固まりそうです。大垣祭りの軕(やま)の、からくり人形や調度品には、中国や朝鮮の影響が如実に見て取れます。そこで、「天井画」の龍も、日本と中国の伝統的な龍図の折衷案でいきたいと考えました。そこに私独自の特長・持ち味として、画面の四隅に「和装の姫君」を描き込み、花を添えようという構想です。
私が、この最初の工程からリアルタイムで創作過程を公開する事は、今まで一度もやった事がありません。創作上の企業秘密も多々あるのです。しかし、今回は公的なご依頼でもありますし、今後の若い画家達への参考に少しでもなればという思いで、拙い創作過程ではありますが、綴っていこうと考えました・・・。
私の場合、このような過程を経て、手を動かしながら、徐々に絵の構想を固めていくのです。この後、もう少し時間をかけて考察しながら、2週間ほどで、正式な「小下図」を完成させようと計画しています。乞うご期待~ ❣

大垣祭り・中町 布袋軕「天井画」 エスキース1、2

大垣祭り・中町 布袋軕「天井画」 エスキース2
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7月23日(金)、本日は「天井画」の杉板に ”ドーサ液(にじみ止めの液。膠とミョウバンで作る)” を塗る工程のうち、”捨て膠” を引きました。板は和紙と違い、厚くて、水をよく吸うので、”捨て膠” を施す必要があるのです。
私も本格的な杉板への描画は初めてなので、何事も手探りなのですが、今までの37年余りの日本画の経験と勘を元に、絵の具用の膠(にかわ/絵の具を接着させる、ゼラチン状の物質。動物の革・軟骨等から抽出する)を4倍ほどに薄めた膠液を今回は使いました。通常のドーサ液の2倍強ほどの濃さです。これは捨て膠なので、ミョウバンは入っていません。
作業は、まあまあ上手くいったと思いますが、板と板の継ぎ目に接着剤のような物がはみ出ていたのか、その部分だけ、膠が光ったまま乾いています。今後の描画への影響が、少し心配です・・・。
今日一日、十分に乾かして、明日、ドーサ液を引こうと思います。続きをお楽しみに~💛

膠(にかわ)/日本画の絵の具を接着させる、ゼラチン状の物質。動物(主に牛)の革や軟骨等を煮込んで抽出したもの。強い接着力を有する。
現在は、使用が簡単な、アクリル系の「新膠」を使用する日本画家も増えたが、私は古来からの「膠」にこだわって使用しています(新膠は、膠抜きができない・洗えない、極長期的な絵の具への悪影響が未知数である、等の問題点がある)。
左から、「墨を作る時用の膠」(本来、日本画用ではないが、三千本膠が市場から消えた時期に、代用品として出回った。荒めの大作等には使用できる)。 「三千本膠」(さんぜんぼんにかわ/これは昔から日本画で最も使用されてきた三千本膠。十数年前、三千本膠を作る最後一軒の製作所が後継者不足で廃業し、市場から三千本膠が消滅した出来事があった。その前に買っておいた、残りわずかな三千本膠)。 「三千本膠・飛鳥」(近年、新たな製作所が古来の製法を復活させて作製した三千本膠。今はこの三千本膠しか出回っていない。)

その他の「膠」等。
左上から、「粒膠」(つぶにかわ/パール膠とも言う。洋膠から製造する。湯に溶けやすいという利点があるが、ひび割れしやすい傾向があり、私は滅多に使いません。) 「ミョウバン」(これは膠ではなく、染色の色止め等に使用する結晶状の物質。日本画では、「ドーサ液」を作る時に用いる。) 「乾燥鹿膠」〈中身と箱〉(かんそう しかにかわ/大正時代から使われている膠。三千本膠より接着力が強い。防腐剤が入っているので、今回のドーサ液には使いません。) 「軟靭鹿膠」〈袋〉(なんじん しかにかわ/乾燥鹿膠に湿潤剤を多く添加したもの。冬場や大作等のひび割れしやすい作品に用いる。) 「黄明練膠」(きめねりにかわ/現代、新しく製造された膠。ひび割れしにくい等の利点がある。その他、同様の効果を持つ膠が何種類かある。アクリル系の「新膠」とは別物。)

「膠鍋」と「膠」。
左は、三千本膠を水につけて、一日、冷蔵庫でふやかしたもの。右は、現在、「絵本」等の小品制作に用いている、溶かした三千本膠・乾燥鹿膠。

湯煎にかけて、膠を溶かす。直火にかけると、高温で膠が分解されるので、必ず湯煎にします。

溶けた「三千本膠」と、「ドーサ刷毛」(ドーサ塗りに用いる、専用の刷毛)。
絵の具用とドーサ用の刷毛は、分けておいた方が良いです。

水で薄めた「三千本膠」と、「ドーサ刷毛」。
絵の具用の濃さの膠を、4倍程度、薄めています(通常のドーサ液の、2倍強の濃度)。

今回特別に、宮大工の方にしつらえていただいた、「天井画」用の高級杉板。

これから、杉板に「捨て膠」を引きます~~。(^。^)y

私・後藤 仁の創作風景!!。捨て膠を引いています。
私の創作の場は、通常、ほぼ非公開ですが、そんなに美しいものでもありませんね~。('◇')ゞ

捨て膠を引いています。

捨て膠を引いています。

捨て膠を引き終った杉板。きれいだね~。 (^o^)丿
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7月24日(土)、世間はオリンピック開会式で盛り上がっていますが、私は、アトリエにて一人、「ひとり技能オリンピック」に興じています。
本日は「天井画」の杉板に ”ドーサ液(にじみ止めの液。膠とミョウバンで作る)” を塗る、いわゆる「ドーサ引き」を施しました。本来は、乾燥期の冬場に「ドーサ引き」をする方が効きが良いとされますが、時期が合わないので、梅雨明けを待って、この夏場に行います。ドーサ液の濃さや塗り加減は、季節や紙の状態等によって差異が生じるので、長年の経験が必要となり、なかなか難しいです。ドーサが効き過ぎて和紙がバキバキになったり、効かない時はドーサ・膠が抜けたりします。未だに失敗する時もあり、試行錯誤の連続です。
今回の杉板は分厚いですし、ガッチリと絵の具を喰いつかせたいので、いつもの和紙用のドーサ液の1.5倍位の濃さの膠液にしました。ミョウバンの量は通常よりわずかに多めで、今回の大皿には小さじ半分程入れました。結晶状のミョウバンを、乳鉢で微粒子にすり下ろしておいて、膠液をぬるま湯位の温度にしてから、ミョウバンを入れます。私の場合、基本的に膠・ドーサ等の分量を計測器で量る事は無く、色や粘度を見て加減を判断するという、全て経験と勘の世界なのです。
前日の「捨て膠」で板の接着部分周辺の一部にテカリが生じていたので(多分、接着剤が少しはみ出ていたのでしょう)、その部分を中心に耐水ペーパー(600番、1000番)を丁寧にかけました。画面全体にも軽くペーパーをかけ、板面の状態を平均化しました。せっかく宮大工さんが綺麗に鉋(かんな)をかけてくれていたのですが、やむを得ません。
1回目の「ドーサ引き」を終え、乾いた状態を見ると、前日のテカリ部分も随分抑えられ、とても良い感じです。
この後、完全に乾かして、昼過ぎ頃に2回目の「ドーサ引き」をして完了としたいと思います。(ドーサ引きは、和紙の場合は、紙の厚さ等に応じて、1~3度引きします。3度引きの場合、表2回・裏1回 等)
この後、1週間程かけて「天井画」の”小下図(こしたず)”を描いていこうという計画です。気分はますます乗ってきました。乞うご期待~ ❣❣

板面に耐水ペーパー(600番と1000番)を丁寧にかけて、接着剤とおぼしきテカリを取る。

板の接着部分(4枚の板を貼り合わせているので、3筋ある)を中心に、全体的に耐水ペーパーをかけた状態。
左のパネルは、今、描きかけの「新作絵本」の原画。その上には、我がアトリエの番人~「シルエットねこ」が写っていますね~🐈 (段ボールのはがれた跡の事ですよ)

一度目の「ドーサ引き」を施す私。慎重・丁寧に、薄く均一に、ゆっくりと塗るのがコツです。
こんな作業の連続が、腰に来るのですな~ (;''∀'')

一度目の「ドーサ引き」を施す私。

今回、使用した「ドーサ液」。
通常の和紙用のドーサ液より1.5倍程の濃さの膠液に、和紙用より やや多めの小さじ半分程のミョウバンを入れました。膠液をぬるま湯程度の温度にしてからミョウバンを入れないと、うまく融けませんよ。

一度目の「ドーサ引き」を終えた杉板。
なかなか良い感じです~ ♡

今回使用した「ドーサ液」と「ドーサ刷毛」。
ドーサ液使用後の刷毛は、熱めの湯でよく洗い(膠はぬるま湯で落とせるのですが、ドーサは乾くと二度と取れなくなるので、熱めの湯でしっかり洗います)、この様に毛並みをきれいに整えて、水気をよく切っておきます(刷毛は中心に毛が寄りやすいので、少し外向きに整える)。道具を大切に長く使用する心掛けは、職人さん同様、画家(芸術家)にも大切な心構えなのです。