2017-02-05
スリランカ写生旅行 その12(最終回)
アヌラーダプラ駅に着くと、9:15発の列車を待ちます。遅れて9:50頃、列車がやって来ました。インドの列車に似た、鉄の塊のような重厚な車体です。アヌラーダプラ発~コロンボ着、「インターシティ・エクスプレス」2等車(450Rs)。外国での鉄道の旅は実に良いものです。昼食は車内でパンをかじり、ガタガタとゆられながら、午後2:30頃、コロンボ・フォート駅に到着。
宿は最初と同じ、ホテル「ザ・セントラルY.M.C.A.」にしましたが、宿泊代は時期のせいなのか一泊室料(食事なし、トイレ・シャワー共同)1800Rsと、最初より安くなっていました。夕食は軽くパンで済ませたと思います。


「スリランカ写生旅行」21日目、6月26日(日)。この日がスリランカでの最終日です。早朝起きると、パンと飲むヨーグルトとピーナッツを食べて、外に出ました。体調はほぼ通常通りに戻っていました。スリーウィーラーをつかまえて、「ヴィハーラ・マハー・デーウィ公園」に向かいました。スリーウィーラーのおっちゃんはやはり少し高めに値をふっかけて来ましたが、値切り交渉して安くしてもらいました。この頃になるとスリランカの物価もほぼ把握しており、旅の全てに余裕があります。車内で、「スリランカのタクシーは正直でいいね。通常値段の数割増ししか、値をふっかけて来ない。インドでは数倍ふっかけて来る事もしばしばあるからね~。」と嫌味まじりに冗談話をしてやりました。
この公園はコロンボで最も大きな公園です。私は海外旅行の最終日には、旅の主要取材目的は全て終えているので、無理をせず、大きな公園等で旅の余韻にひたりながら、まったりと時間を過ごします。珍しい鳥がいるので写真を撮ろうとしていると、公園内の警備をしていた警察がスッと寄って来て、公園内は撮影禁止だと言います。公園内が撮影禁止などという規則はどんな国でも聞いた事がありません。しかも、地元の親子は、平気でスマホで撮影していました。ここは官公庁や主要施設がある首都なので、外国人に対して警戒心が特別強いのかも知れません。キャンディやポロンナルワでの警察・警備員の異様な警戒といい、日本人の私には理解しがたいほどの状況ですが、この意味は日本に帰るまで解明できませんでした・・・。
公園にいた馬をF4号のスケッチブックに軽くクロッキ―しました。F4号、SM号スケッチブック共に、残り1枚ずつを残して写生を終えました。2冊全部を描き終えるのが目標でしたが、旅行終盤、体調が優れない中、ほぼ2冊を描き終えれたので満足です。
公園の端にある「コロンボ公共図書館(Colombo Public Library)」に立ち寄りました。スリランカ一大きな図書館のようです。児童書のコーナーに行ってみると、思ったより多くの児童書・絵本が置いてありました。ただ、スリランカの出版社の簡素な本や、ヨーロッパのものと思われる本ばかりで、日本の絵本等は見当たりません。また、在庫された本はかなり昔に仕入れた感じで、かなり傷んでいます。子供用の可愛らしい机と椅子が置かれているものの、部屋全体が薄暗くて、たまたまこの日だけなのか、来館者もほとんどいなくて、立派な図書館が完全に活用できていない感が強いです。私は自身の「絵本」の寄贈を、司書の方に約束して、図書館を後にしました。
時間がまだあるので、公園からしばらく歩いて、「ラクサラ」という高級民芸品店に寄って、土産を探しました。ゆとりを持って両替していたので、スリランカ・ルピーが意外と余っていたのです。自分用のシャツや友人・知人用の象の置物等をまとめて買いました。ここで、7590Rsを使用したのでスリランカ旅行一の大奮発です。店内ではずっと店員や警備員が付いてまわるので、客への丁寧な対応のつもりなのかも知れませんが、汚い身なりの異邦人を警戒しているようにも感じられ、少し不愉快になって来たので、警備員と店員に一言、「スリランカでは、警察や警備員の警戒が異様に厳しくて、困ったものだ~。」と軽い嫌味を言ってやりました。旅も終盤になると、旅の満足感と伴い、周囲からの外圧ストレスも、結構たまっているものです。
そこから歩いて、「アーケード・インディペンデンス・スクエア」という、しゃれたショッピングモールに寄りました。まだ、予算が余っているので、昼食はショッピングモール内の「キャーマ・スートラ」という少し高そうなスリランカ料理店で、骨なしヤギ肉カレー、キングココナッツ・ジュース(計2375Rs)を食べました。観光客向けの準高級料理店だけに、さすがに見事に美味しかったです。旅行の最後だけは、普通の日本人観光客の様相になってしまいましたね。ただし身なりは、リュックを背負った汚い服装の怪しいアジア人です。


いよいよ帰りの時間が近付いて来ました。スリーウィーラーでセントラル・バスターミナルに向かい、空港行きのバスを探します。エアポートバスに乗りたかったのですが、乗り場がよく分からないので周囲の人に聞くと、187番のバスに乗れと言うので、午後2:30頃そのバスに乗り込みました(空港まで100Rs)。ただ、そのバスはエアポートバスではなくて、通常のローカルバスでした。途中途中で停車しながら、ゆっくり進みます。旅の経験で、飛行機の出発時間までには、かなりの余裕時間を計算してあるので助かりましたが、ゆとりがなければ危ない所でした。最初に乗ったエアポートバスの倍の2時間位かかって、4:30頃に「バンダーラナーヤカ(カトゥナーヤカ)国際空港」に到着しました。しかも、少し離れた街中にバスが着くので、500m程歩かないと空港入口には到達しません。最後まで、旅はハプニング続きです。
スリランカ航空 UL454、19時15分 スリランカ・コロンボ 発 ~ 27日7時35分 日本・成田 着。旅の最後に来て体調を崩し、無理のある自由一人旅もこの年齢になると少々こたえて来たなと思いつつも、今回も誠に充実した取材旅行が出来たと、満足感に包まれながら日本へ向かいました。
日本に着いた直後にニュースで見たのですが、私がコロンボを発った同じ頃、バングラデシュの空港で爆破テロ事件が起こったという事を知りました。現在の世の中は、全ての物象が徐々に物騒な状況に向かっています。バングラデシュと同じ南アジアに位置するスリランカでも、同じような危機情報が飛び交っているでしょうから、そう考えると、今回のスリランカの異様な警備体制も合点がいきます。今の世の中の現状を踏まえると、よく言われる事ですが、もしかしたら日本人の方が平和ボケしているのかも知れませんね。それと同時に、ますます「平和」というもの、「寛容性、融和精神」の大切さを改めて実感する事になります。
今回の旅では、素晴らしいスリランカの文化に触れた大きな感動と共に、何かしら理解しがたい巨大な不安の影を感じました。思いやり・利他精神は、思いやり・利他精神につながり、不安・懐疑・恐怖は、不安・懐疑・恐怖を増幅します。そんな時、ゴータマ・ブッダが2500年も昔に唱えられた、言葉の重要性を知る事となるのです・・・・
「実にこの世においては、怨みに報いるに怨みをもってしたならば、ついに怨みのやむことがない。怨みをすててこそやむ。これは永遠の真理である。」 (「ブッダの真理のことば 感興のことば」中村 元 訳/岩波文庫、より)
*
今回の取材旅行の「旅行費用」をざっと記しておきましょう。
「スリランカ周遊 写生取材旅行 22日間」
航空券・ビザ・旅行保険代金 約13万円
現地滞在費(宿泊、食費、交通費 等) 約8万円
総計 約21万円
今回も極力安い費用で、最大限充実した取材旅が出来ました♡。お金持ちならば、費用をかければ、快適で充実した旅が出来るのは当たり前です。しかし贅沢旅では、かえって最も重要な真実が見えないものです。私のような貧乏絵描きは、いかに工夫して、安くても素晴らしい取材旅をするのかが重要なのですね。お金ではなく、頭と足を使うのです。
旅の成果は、スケッチブック2冊で、計42枚(F4号19枚、SM号23枚)のスケッチ。
写真撮影 3414枚。(今回、デジタルカメラの保存容量を増やして、撮影分全てを画像データ保存し、必要に応じてプリントする事にしました。)
私はプロの画家なので、スケッチや原画をネット上で滅多には公開しないのですが、拙ブログ来訪者に感謝して、特別に2枚だけお見せいたします。


*
前回の「ミャンマー旅行」でも記した内容に付記します。
スリランカは、南アジア圏では比較的治安の良い国と言われています。私の実感で「旅の快適度・難易度(治安、利便性、雰囲気の良さ等から総合的に判断)」を独断と偏見で比較したら、今回のスリランカは、タイ王国北部(チェンマイ・チェンラーイ)と同じ位のレベルでしょう。
私が今までに旅をした国々の「旅の快適度・難易度」をざっと表にしてみると、以下のようになりました。(上方ほど快適度が高い、下方ほど難易度が高い。)
◎ラオス(ルアンパバーン)、ベトナム(サパ・バックハー)、ミャンマー(インレー湖・カロー)、日本(地方)
○日本(都心部)
○タイ王国(チェンマイ・チェンラーイほか)、イタリア・バチカン市国、ミャンマー(総合平均)、スリランカ
○中国(北京・上海・貴州省・四川省ほか)、タイ王国(バンコク)、ミャンマー(ヤンゴン・バガン)
○ベトナム(ハノイほか)、カンボジア(シェムリアップ)、ミャンマー(マンダレー)
(この間には開きがあり、これ以下は旅の難易度が増します。)
●中国(チベット)、ネパール(カトマンズほか)、インドネシア(ジャワ島・バリ島)
(この間には開きがあり、これ以下はさらに旅の難易度が増します。)
●インド(全域)
●インド(バナーラス)
といった順ですが、これはその場の「良し悪し、素晴らしさ」という判断ではなく、あくまで治安を中心とした「快適度・難易度」です。また、私の訪問年代にもよりますし、たまたま運が悪かったという場合も考えられるでしょうから、私個人の主観としてご参照下さい。
インド、ネパール、インドネシアなどは、とても優れた遺跡や文化が残っている素晴らしい国です。ただ、これらの国は一人旅をするのは結構難しい地域で、身に危険を感じる場面が何度か起こる可能性があり、特に女性の一人旅はよほど旅慣れた人でないとおすすめできません。また、ツアー旅行の場合でも、注意が必要になって来るでしょう。
外務省ホームページの危険情報によると、インド辺りは黄色(十分注意)から部分的に薄いオレンジ色(渡航の是非検討)位の危険の程度です。中東やアフリカの紛争地帯では、濃いオレンジ色(渡航延期勧告)から大部分は赤色(退避勧告)ですので、いかにそれらの地域に旅をするのが危険なのかが推察されます。
*
ちなみに、私が今までの海外旅行で、「最も感動したランキング ベスト10」を挙げるとざっと以下のようになります。(それぞれが個々に素晴らしくて、感動要素も異なるので、一概に比較するのは難しいのですが、私の主観による感動度のみでランキングしてみます。)
第1位 ☆インド アジャンター石窟「蓮華手菩薩像」
第2位 ☆ネパール カトマンズ「インドラジャトラ祭・クマリとの遭遇」
第3位 ☆中国 チベット「ポタラ宮」
第4位 ☆インド バナーラス「ガンガーでの沐浴」
第5位 ☆インドネシア ジャワ島「ボロブドゥール遺跡」
第6位 ☆中国 貴州省「トン族村」
第7位 ☆イタリア・バチカン市国「システィーナ礼拝堂 ミケランジェロのピエタ像」
第8位 ☆カンボジア「アンコール遺跡群」
第9位 ☆ベトナム サパ・バックハー「モン族村」
第10位☆インドネシア バリ島「バリ舞踊」
アジャンター石窟やガンガーの沐浴、ポタラ宮では、感動のあまり感涙を起こすくらいですし、インドラジャトラ祭ではほぼ放心状態でした。つまりは、より近付く事が困難であるから、より感動が増加するとも言えますので、「旅の快適度・難易度」がそのまま「旅の良し悪し」ではないという事なのです。
私の教える絵画教室(カルチャースクール)の受講者中の何人かは、私の旅の面白話の影響を受けられたのか、私と同じ旅行先に実際、ご旅行された方もいるようです。私の話をよく参考にされているのは、誠にうれしい事です。ただ、お金を払えば誰でも行ける簡単な「ツアー旅行」では、私と同程度の感動は多分、得られないのではないかと思います。現地の文化・美術への造詣と知識を十分に得た上で、長期間の自由旅行で精神を解き放ち、不便を乗り越えながらようやくたどり着いた中での感動なのです。
不安定な国際状況の中、今後の海外取材旅行でも多くの困難を伴うかも知れませんが、こらからも機会があるごとに私は写生旅行に出かける事でしょう。そこに感動があり、絵画創作へのインスピレーションの源泉がある限り、私は一生旅を続ける事になりそうです。
日本画家・絵本画家 後藤 仁 GOTO JIN