2015-05-26
和歌山県~兵庫県 写生旅行(2015年5月)その1
美術館から車で1時間ほど有田川をさかのぼると、あらぎ島(蘭島及び三田・清水の農山村景観、国選定重要文化的景観)に着きました。川の蛇行した所に造られた棚田は、とても珍しく面白い景観です。中国貴州省トン族村で見られた棚田とよく似ていて、文化の共通点を感じます。ここで10分ばかり、軽くスケッチしました。本当はもっと長時間スケッチしたかったのですが、今日は人に案内していただいているので、短時間で済ませました。


次に、近くの民家を見学。私は民俗学に大変興味が深いので、その土地の民家は必ず押さえておきます。民家には、その土地土地の工夫や、自然環境の影響を見る事ができます。藁葺き屋根の下から瓦屋根が出ている構造は、珍しいのではないでしょうか。ここは宿泊施設になっているそうですが、こんな民家に泊まってみたいものです。

有田川町市街地に戻り、みかんの花をスケッチしました。5月は みかんの花のシーズンですが、今年はやや散りかかっていました。有田川町に隣接する有田市の みかんは有名ですが、有田川町にもたくさんの みかんがあり、名産になっています。私はずっと「有田みかん」を「ありたみかん」だと思っていましたが、「ありだみかん」なのですね。スケッチしながら、”みかんの花が~咲いている~♪ ”という心地よい歌のフレーズが頭の中で流れていました。みかんの花は初めて見ましたが、白くて可憐な花で良い香りがします。

有田川町は図書館事業にとても力を入れていて、素晴らしい環境の最先端図書館が建っています。大人向けの図書とマンガを収蔵した有田川町地域交流センター(ALEC)は、カフェも併設され、私が行った時も多くの町民が飲みものを飲みながら本を閲覧していました。若者の読書離れが問題視される昨今、行政や図書関係者側も色々工夫していかなければいけないのでしょう。有田川町は小さな町ですが、やる気になればこの様な立派な文化施設が造れるのだという事です。私の住む松戸市は50万人都市ですが、図書館はかなり老朽化した旧式の施設しかありません。お金をかけて箱ものを造れば良いというものではないのですが、図書館や美術館・博物館等の文化施設は、その土地の文化発展・文化造詣の指標にもなりますので、都市規模に見合った施設が望まれるでしょう。ただし、本は図書館で借りるだけでなく、気に入ったら買って下さいね~、作家が食べて行けなくなりますから・・・・( ; O ; ) 。
有田川町は子供の文化環境の充実も図っていて、金屋図書館は児童書専門の図書館になっています。ちいさな駅美術館の設置もそうした方針の一環でしょう。明るく落ち着いた雰囲気の金屋図書館館内は、子供の情操教育にも最適です。私はここの壁面に、絵本『犬になった王子 チベットの民話』(岩波書店)のアチョ王子犬を描きました。多くの著名絵本作家が描き込んだこの壁面は、将来相当貴重な文化財になるかも知れませんよ・・・(^_-) -☆ 。

この日は前日の東京からの移動と睡眠不足もあり(あまり気にしていない様でも、ギャラリートークへの緊張感もあるのでしょう)少々疲れたので、夕方一旦、宿で休憩しました。宿は美術館側が用意してくれた橘家(有田市)という老舗旅館ですが、なかなか雰囲気のある良い宿です。日頃の取材旅行では、なるべく安い宿を選ぶので、私からするとかなり贅沢な感じでした。夕食は美術館職員の方々と打ち上げ的な宴席が設けられました。若くて元気なスタッフがそろった有田川町は、将来に期待が持てます。魚介類や名物の寿司(多分、早寿司という押し寿司のようなもの)を美味しくいただきました。
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5月11日、良い宿でしっかり休めた私は元気を取り戻し、有田川町周辺の取材をしました。この日も美術館職員の方に案内していただきました。ガイドブックを見て、中将姫(ちゅうじょうひめ)にゆかりを持つ寺があるというので、ぜひ訪れてみたいと思いました。中将姫は当麻曼荼羅(たいままんだら。当麻寺、奈良県)の制作にまつわる仏教説話の主人公です。私は中将姫伝説には高校の頃より、かなり執心しているのです。得生寺(とくしょうじ、有田市)という寺で、義母に殺されそうになった中将姫が草庵を建てて身を隠したのがこの寺の起源だと言います。5月14日には中将姫にちなんだ「来迎会式」という行事が行われるというのですが、日程の都合で見れずに残念です。奈良県の物語の由来が、こんな遠い土地まで広がっている事に驚きました。

次に、湯浅町の湯浅伝統的建造物群保存地区に行きました。角長(かどちょう)職人蔵で醤油造りの道具を見学し、大仙堀から見た角長の醤油蔵を30分ばかりスケッチしました。

それから、白崎海岸(白崎海洋公園、由良町)に行きました。石灰岩の真っ白い断崖は実に不思議でシュールな世界でした。ここで2枚、軽くスケッチしました。和歌山県には何度も取材旅行に訪れていますが、まだまだ知らない素敵な見どころがたくさんある事に気づかされます。

午後2時過ぎ、予定の時間が来たので美術館の方とお別れし、私の故郷・兵庫県の赤穂(あこう)を目指して、電車で移動しました。この後、一週間弱、兵庫各地の取材をしましたが、その模様はまた次回といたしましょう。
日本画家・絵本画家 後藤 仁