2013-09-22

絵本『ながいかみのむすめ チャンファメイ』(福音館書店)寄贈プロジェクト

 私は絵本『ながいかみのむすめ チャンファメイ』(福音館書店こどものとも)を2013年2月1日に出版した直後から現在まで、各方面への寄贈を続けて来ました。一つには、当然ながらより多くの人々に自分の描いた「絵本」を見てもらいたいという作家としての思いからです。もう一つは現在の東北を始め、多分まだまだ「絵本」が足りていないであろう所に少しでも「絵本」を届けたいという率直な願いです。
 福音館書店から自費で「絵本」を買い取って、一枚一枚に自筆サインを書き込んで、梱包して郵便局から送付します。現在までに950冊仕入れて、700冊以上は寄贈して来ました。(200冊位は展覧会等で販売していますが。)それは、たった一人での地道なボランティアの様なものです。ボランティアなら黙ってやるのが日本人の美徳だとおっしゃる方もいるでしょうが、そこは絵描きの言いたがりと、何事も正直を旨とする私は、この様に有言実行で公に喚起する事で「東北を忘れない」というスローガンにもつながるのではないかという期待もあります。
 東北の様な被災地を始め、日本中いや世界中にはまだまだ「絵本」を必要としている所は多々あります。私は多くのアジア圏を旅しましたが、極めて貧しい生活を強いられている子供達を多く目の当たりにして来ました。幼い子が懸命に労働をしている姿を何度も見て来ました。(しかし、生活は貧しくとも、大抵の子供達の目はキラキラと輝きとても明るく元気です。)
 また、混迷する世界情勢の中で、日本画家の私が日本の伝統的な絵画表現である日本画で、中国の民話を「絵本」に描く事により、日本と中国、そして世界への文化交流・平和交流の一助になれるのではないかという提唱でもあります。
 私の微力ではなかなか及びませんが、時間をかけてでも機会があるごとに少しずつでも、日本中・世界中の子供達への「絵本」の寄贈を継続していかなければと考えています。


 絵本寄贈プロジェクト初期の多くは前からのご縁のある人・お世話になった人に寄贈していたのですが、最近は東北方面の様に「絵本」を必要とすると思われる箇所を中心に贈っています。このプロジェクトが一旦一段落しましたので、現在までに寄贈した主な寄贈先をまとめてみます。(大体、寄贈時期順に記します。寄贈冊数を書いていない箇所は、1~2冊です。)退屈かも知れませんが、ここに正確に記録しておきますので、関心のある方はご覧下さい。

    絵本『ながいかみのむすめチャンファメイ』表紙画像絵本『ながいかみのむすめ チャンファメイ』(福音館書店こどものとも)


 【絵本寄贈先リスト】 
 親、兄弟、親戚。私が絵の講師をつとめる文化センターの生徒さん全員(約70冊)。ローマ法王庁(バチカン市国)大使館大使。文字活字文化推進機構、スタジオジブリ(宮崎駿氏)。ちひろ美術館。東京こども図書館(松岡享子先生)。東日本大震災復興支援松戸・東北プロジェクトサロン「黄色いハンカチ」を通して、松戸市女性センター(ゆうまつど)、NPO法人ふれあいネット松戸、NPO法人子どもっと松戸、NPO花見山を守る会、東松島震災仮設住宅、松戸市男女共同参画推進グループ登録19団体(詳細は省略します)、に計105冊。いしど画材。社会福祉法人まつど育成会。千葉県赤十字血液センター松戸。千葉県立松戸高校芸術科。NPO法人子育て支援ぽこら。京葉銀行本店。千葉銀行本店。さいたまコープ(10冊)。NHK文化センター柏。読売・日本テレビ文化センター柏・金町・町屋。岩手県陸前高田市仮設図書館「にじのライブラリー」「ちいさいおうち」。中国貴州省の旅行社を通して、州民族博物館、トン族の村等に10冊。中国貴州省肇興中学校・小学校。中国国家観光局。東京中国文化センター。中国西安美術学院(李玉田教授)。日本中国文化交流協会。ブータン王国領事館。ブータン王国国王陛下(5冊)。イルフ童画館。聖徳大学図書館。中国大使館大使。大阪市立工芸高校美術科。飛騨絵本美術館ポレポレハウス。佐藤美術館。後藤純男美術館。岩波書店児童書編集部。JCNコアラ葛飾。読売新聞社や毎日新聞社等の新聞社、NHK等のテレビ局、美術雑誌社、児童書出版社、児童書専門店等のメディア・書店関係等に約50冊(「読者・視聴者プレゼント」を含む)。千葉県立中央図書館。松戸市立図書館。柏市立図書館。葛飾区立中央図書館。千葉県子ども読書推進委員会。日中友好協会。千葉県日中友好協会。日中友好会館。文部科学省。鏑木清方記念美術館。チベット文化研究所。中国四川省の旅館「日月山荘」。東京華僑総会。市川市動植物園。早稲田教会。バブテスト教会。発達障がいを持つ人たちのブックカフェ。石巻YMCA。
 公益社団法人 日本国際民間協力会NICCO気仙沼事務所を通して、気仙沼市内と陸前高田市内の学校・児童施設に計20冊。公益社団法人 日本国際民間協力会NICCO名取事務所のご紹介で、名取市立幼稚園・小学校・中学校に計21冊、名取市文化会館「希望の家」絵本キッズスペース、名取市「サポートセンターどっとなとり」常設サロン(6冊)、名取市社会福祉協議会「復興支援センターひより」仮設住宅(8冊)、名取市社会福祉協議会「名取市友愛作業所」、名取市立保育園・児童センター・放課後児童クラブに計19冊、名取市教育委員会 家庭教育支援チーム「ぽっぽはうす」、名取市立図書館「どんぐり子ども図書館」。特定非営利活動法人ジェンJENのご紹介で、宮城県石巻市教育委員会と石巻市内の39小学校と5幼稚園に計45冊。福島ひまわり里親プロジェクトを通して、福島県内の全公立図書館に計97冊、二本松市内の幼稚園・小学校に計16冊。宮城県高校教育課。・・・等々、総計700冊以上を現在までに寄贈して来ました。
 今、宮城県庁からの宮城県内学校への100冊規模の「寄贈先リスト」のお返事を待っている所です。

               *

 マメな私はかなり詳細に記録しているのですが、中には道端でたまたま出会った子供を連れた保育所の集団やお世話になった方への手渡し等で記載漏れも多くあるかと思います。また、個人のプライバシーを考え、ほぼ公人化している方を除いて個人名は伏せてあります。
 ただの貧乏絵描きですし、絵画制作の多忙な私にとって、このプロジェクトは決して楽なものではありません。しかし、世の中には私よりはるかに厳しい環境を余儀なくされている人々がたくさんいます。それを思うと、絵描きの私が出来る範囲で何かをせねばならない、いたたまれない気持ちに至るのです。
 絵本『ながいかみのむすめ チャンファメイ』は、一人の少女の献身的な勇気・思いやりの心によって、自然の脅威を乗り越え、村に水がもたらされる物語です。東北の災害は「水」の恐ろしさを見ましたが、反面、「水」の恩恵で人間は暮らして行けます。自然は厳しくもあり優しくもあるのです。
 この「絵本」を読んだ東北や松戸や日本中・世界中の子供達が勇気・元気を出して下さる事を願って、微力ながらこれからも絵本寄贈プロジェクトそして、絵本原画制作を継続していきたい所存です。今後ともご教導の程、よろしくお願い申し上げます。 
  日本画家・絵本画家 後藤 仁

 


 
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2013-09-19

「日本画」から「絵本」へ(絵本原画展と絵本朗読会を終えて)

 何故、純粋美術の「日本画」に拘泥し、30年以上も描き続けて来た私が、今、「絵本」という新しい世界に飛び込んだのか・・・それには、多くの理由があります。
 日本画界の閉鎖性・権威主義・団体主義が体質に合わない事。欧米では「絵画」を芸術としてとらえ画廊が特色のある作品を販売するのに対して、日本では「絵画」を宝飾的高級品・投資品ととらえ大半を百貨店が機械的に販売してきたという事実。その百貨店の衰退による「日本画」等の高級美術品の先細りの現状。(このまま何も変革せずに行くと、数十年後は「日本画」は衰退してほとんど形骸化していると予測しています。)私は本来「物語絵」「絵巻物」等の文学性がある作品や「人物画(美人画)」に興味が高く、その様な作風を探求したいのに、現在の画商が求めるのは販売しやすい「風景」「花」ばかりである点。・・・等々その他にも多くの理由があります。

 その中でも、大きな理由として挙げられるのが、「日本画」がいったい誰を相手に描いているのか、そのが見えてこないという事実です。「日本画」は一枚ものですし、画材代も高く、制作も長い経験と高い技術を必要としますので、必然的に価格がかなり高くなります。号(ハガキサイズ)3~4万円で扱われている私の作品でも一般人の価値観からしては結構高いのですが、私等は日本画界では最も安い方で、号10万円、20万円の作品も多くあります。偉い先生ともなると号100万円、200万円を越えて来ます。それでは、「日本画」を買って楽しめる人は相当限定されて来るのです。その値段に見合った質の作品ならまだしも、多くはそうとは言えないのが現状です。(画商は投資的・計画的に絵の価格をつり上げます。)「日本画」のコレクターと言われる方々は、ほとんどが年配の富豪です。日本の中のほんの一握りの好事家が「日本画」を愛好している事になります。展覧会や画集なら多くの一般人も楽しめるのですが、やはり、あまりに敷居が高く感じられては人心が離れるもので、現在では特に若年層の「日本画」の認知度は相当悪いのです。30歳代以下の人は「日本画」という名称さえ知らない人がほとんどです。これでは「日本画」の世界は、次世代には必ず今以上に高速に衰退して行きます。
 私位の価格の作品を買われる方は、まだ一般人が多く、展覧会場で作品を購入していただいた方は本当に有難いのですが、せいぜい会場で少し挨拶する位で、大抵の場合は購買者の顔も見れないのがほとんどです。自分の作品がどこでどの様に皆様の手に届き、喜んでいただけているのか、今一つ把握出来ないもどかしさが、ずっとありました。

               *

 そのような中、福音館書店のお勧めもあり「絵本」を手掛ける事になりました。現在残された唯一とも言える「物語絵」に近いジャンルが生きているのが「絵本」の世界です。長年「物語絵」を描きたかった私は、張り切って自然とその世界に飛び込んで行きました。中学生の時に、マンガ・イラストの商業美術・印刷美術の世界から脱して、更に高度な純粋美術の世界を志した時以来の、大きな方向転換でした。しかし、純粋美術界の問題点・腐敗を目の当たりにしてきた私には、どちらが高い低いの区別は、もう感じません。

 今回「絵本原画展」と「絵本朗読会」等を通して感じたのは、作品の愛好者との距離の近さです。特に次の世代を担う、感性の伸びていく頃の子供達が作品を楽しんでくれると言う事は、大きな魅力です。また、子供だけでは無く、本当に上質な「絵本」は当然、大人でも楽しめるのです。
 展覧会会場で、美術館館長が朗読する「絵本」を熱心に聞き入る子供達。朗読会で、読み手が話す「絵本」に集中する子供達。また、インターネット上で、私の知らない場所知らない人達が、拙作絵本『ながいかみのむすめ チャンファメイ』を子供達に朗読している画像が幾つもありました。その子供達・大人達の熱心に聞き入る姿、子供達の澄んだ瞳を見ていると、ああ「絵本」を描いて良かったなと目頭が熱くなりました。まさに、作品愛好者のが見えるのです。「日本画」の世界の様にほんの一握りの人だけを対象とするのでは無く、「絵本」の世界では幅広くあまねく日本中いや世界中の人々を感動させる事も可能でしょう。

 「日本画」の画材や、日本美術史上での上質な作品群には大いなる魅力がありますので、これからも「日本画」を描いていく事は間違いないのですが、その表現媒体が展覧会だけだったものが、印刷美術までと幅が広くなっただけだと私は解釈しています。今後も「日本画」「絵本」と精力的に制作してまいりますので、ご教導の程よろしくお願い申し上げます。 
  日本画家・絵本画家 後藤 仁

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2013-09-18

本日、「えほん おはなし屋(絵本朗読会)」開催します!!

 本日は、午前中「王朝物語絵」制作を進めて、3時からは、「えほん おはなし屋(絵本朗読会)」に出席します。主催と朗読は、松戸市在住の読み手、おおこし きょうこ さんです。私は、表紙原画を携え見学するだけです。
 おおこし さんは、私の絵本作品『ながいかみのむすめ チャンファメイ』(福音館書店)を読まれて、大変感動されたそうで、今後長く読み続けていきたいと、とても熱心に語って下さいました。おおこし さんは、長年、まじめに朗読の勉強をされてきた方で、今後、更に本格的な活動をしたいと意欲を見せておられます。そこで、私も少しは応援したいと思ったのです。
 「六実市民センター」は松戸の端に位置し、交通の便は良いとは言えませんが、お近くの方、絵本の好きな方、お子様・お孫様とご一緒に、ぜひ、お越し下さい。よろしくお願い申し上げます。 日本画家・絵本画家 後藤 仁

 詳しくは、私のホームページ等をご覧下さい。
 http://gotojin.web.fc2.com/news.html

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2013-09-16

絵本『ながいかみのむすめ チャンファメイ』出版までの永き道のり その12

 絵本『ながいかみのむすめチャンファメイ』(福音館書店こどものとも)の原画制作は、2011年冬頃、「第十一場面」に入りました。この場面は、娘が母とお別れをする情景で、私が全場面の中で最も重要と考える一場面です。ラフスケッチの段階から、かなりの試行錯誤がありました。ラフスケッチの最初の頃は、原話には書いてあった母と直接会ってお別れを言う「文章」がカットされ、となりのおばさんに話をする所だけが書かれていましたので、ラフスケッチでもこの娘と母の別れの場面は無かったのです。私は「何故、娘と母が直接別れを言う文章をカットしたのか。」と福音館書店編集者に質問し、この場面の重要性を説明しました。編集者は君島久子先生にも打診していただいた様で、ラフスケッチ第四案から、この場面が文章にも加えられました。
 「ラフスケッチ第四案」では、唯一の室内空間の視点の面白さを考え、絵巻物等で良く用いられる「吹き抜け屋台」の俯瞰構図にしようと思っていました。少し客観的な雰囲気をねらったのですが、やはりもっと感情を強く訴えた方が良いと感じて、「ラフスケッチ第五案」では、横からアップの構図に変更しました。私は当初から室内描写だけで良いと考えていたのですが、編集者が「どうしても、緑で青々とした光景を入れてほしい。また子ブタは無くて良いのでは・・・。」と強く要望されました。話の流れ上それも面白いので、ラフスケッチ第五案では、背景に空想的に村の景色を入れていました。
 しかし、背景に風景を入れると幻想的で気持ちの良い画面になるのですが、必然的に場面のコンセプトがあいまいになり、娘と母の別れを語り合う感情が薄れてしまうのです。編集者はどうしても背景を入れてほしいと、かなりねばりましたが、「この場面は私が最も大切だと考える場面で、絵画表現上も感情表現上も背景を入れずに、室内空間のみで勝負した方が良い。この場面は私に全部任せてほしい。」と私は説得しました。また、編集者はあまり重要視していなかった子ブタでしたが、私は「絵本」における動物の重要性や、この物語の脇役としての重要性を認識しており、この別れの場面にも必ず登場させたかったのです。そしてラフスケッチ第七案(最終案)にして、ようやく本画の様に決定しました。

ラフスケッチ第11場面01ラフスケッチ第十一場面 第四案

ラフスケッチ第11場面02ラフスケッチ第十一場面 第五案

               * 

 『絵本』の世界では、あまり感情を強く表現せず、全てをさらっと・あっさりと表現するのが定説とされている様です。私はその定説に前々から疑問を感じていました。もちろん、その様な作品が主流でも良いのですが、これだけ多くの表現媒体が発達した昨今、果たして子供達は今の『絵本』の表現法だけで満足しているのか疑問なのです。私自身、幼少期にあれ程親しんだ『絵本』なのに、小学校一年の頃にはその様な空々しい作風に飽きてしまい『マンガ・アニメ』に興味が移って行ってしまいました。その後は、宮崎駿氏の描く「未来少年コナン」「母をたずねて三千里」「アルプスの少女ハイジ」「フランダースの犬」等のリアルな世界に夢中になりました。
 私は日本画家・美人画家の私でしか描けない、高度な情感表現・真実味を具現化した、世界にも通用する、新しい『絵本』の息吹を、この世界に吹き込みたいのです。

               *

 本画制作でも、気持ちを最大限に込めて描きました。灰色の暗く地味な室内のみです。何の飾りもきれいさも無い空間です。静謐な時の中、娘と母の二人だけの交感があるのです。暗い部屋の中で、娘の白い髪が美しくあやしく輝いています。娘の目を良く観察すると、極めて微細な涙の粒が描かれていて、娘が涙を我慢しているのが見て取れるでしょう。それを脇で見つめる三匹の子ブタも哀れをさそいます。私は描いている内、尋常で無いテンションに入っていくのですが、この場面は特に感情移入が激しく、描きながらも涙があふれて止まらなくなる時が時々ありました。(私の父との死別という個人的な経験も思い出すのです。私は父を大学卒業直前に不慮の事故で亡くしています。)私はこの場面に、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの「大工の聖ヨセフ」を想いました。
 しかし、窓からは柔らかい光が差し込み、青い小鳥が語り合い、この後の幸運を暗示しています。窓外には青々とした草もうっすらと描かれてあります。良く見ると部屋の後方には、かまど、水瓶、包丁、背負い籠等が描かれ、床の木の木目まで丹念に描写してあります。布団の模様はトン錦というトン族の伝統的幾何学文様です。トン族の民家は、この様に壁も床も全て杉の板で出来ており、歩くとギシギシと良い音がします。私が泊まった民家では木のベッドが使われていましたが、昔からベッドがあったと思います。(ただ完全な検証が出来なかった部分は、私のイメージも入っています。)本来、トン族の家屋はほとんど二階建てで、一階は土間になっているのですが、チャンファメイの家は母娘の貧しい家である所と、第二場面・第十一場面等の表現の都合上も一階建てに描きました。光や木の直線は「溝引き(みぞびき)」という伝統的な技法で引いています。

 「第十二場面」以降は、「第十一場面」の暗い場面から一転して明るい光の世界になります。この明確な場面対比の視覚効果も私がねらった所です。「第十二場面」はガジュマルの大木に別れを言う場面です。木は動物の楽園になっており、フクロウ、ワシ、ツバメ、コトリ、リスが憩っています。この木の周りだけは草も茂っています。木には人々が花を供えてあります。この場面では、人々や動物達に安らぎを与える、大木を真正面から描きたかったのです。葉も一枚一枚丹念に描写しました。全面に「砂子(すなご)」という伝統技法を使って純金箔をちらしてあります。

 
 この次は「第十三場面」ですが、その話は次回としましょう。 日本画家・絵本画家 後藤 仁

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2013-09-11

絵本『ながいかみのむすめ チャンファメイ』出版までの永き道のり その11

 絵本『ながいかみのむすめ チャンファメイ』原画制作も、「第六場面」に入りました。この場面は、チャンファメイの悩み苦しんでいる心の中を表現しなければいけない難しい場面です。最初のラフスケッチでは、髪が真っ白くなってしまった、はかなげなチャンファメイを描く予定だったのですが、福音館書店編集部の意見で、まだ黒い髪のままのチャンファメイになりました。
 この場面のチャンファメイの乱れ流れる髪の毛は、特に気持ちを入れて描きました。1ミリの何分の1の細さです。背景には「墨流し(マーブリング)」という伝統的な技法を入れ、チャンファメイの乱れる心を表現しました。画面を不安定色とされる紫色でまとめました。(紫色は色相の輪の両端である赤と青を混ぜて作られた最も不安定な色で、人間の心理を不安にさせる効果があると色彩学では言われています。反面、上手く使うと特別な高貴な色にもなりえるのです。一般的に落ち着く色に思われる緑色も、本来は青と黄を混ぜた不安定色ですが、自然のイメージで安らぎを感じるのです。)チャンファメイの顔は極めて薄塗りにして、意図的に背景を透かせました。
 右のページには、水くみに苦しむ子供と老人を描きました。この老人は次の場面にも出て来る老人ですが、よく観察すると同じ老人は、第一場面、第一五場面にも出て来ます。この子供も第一場面、第八場面、第九場面、第一五場面(第一五場面では似た子が何人かいて区別がつきませんが・・・)に登場します。
 
 「第七場面」は、老人を助け起こすチャンファメイの、迷いから覚める強い意志を表しています。背景はまだ混沌とする感情を表して、墨流しに強めの朱色を塗りました。印刷ではこの朱色が出にくい様で、原画の朱はもっと強い色をしています。白い髪は胡粉と墨で描いています。老人のしわの様子は、随分観察しました。
 この場面のラフスケッチでは、色々な角度から何度も描き直してなかなか決定しなかったのですが、編集者が私のアトリエに飾ってあるバチカン市国で手に入れたミケランジェロの「ピエタ」の写真を見られたのか、「ピエタの様なイメージはどうでしょうか?」と言いましたので、その後、すぐにイメージが固まりました。私はミケランジェロを真の芸術家として崇敬していますが、特にピエタの像は好きです。

 「第八場面」は、駆けて行くチャンファメイのスピード感を出そうと腐心しました。ラフスケッチでも何度も描き直し、最初は引きの画だったのが、最終的にはかなりアップの画になりました。最初は原文に忠実に、のみや包丁を持つ人々を描く予定でしたが、編集部の意見で水をくむ為のひしゃくや水桶を持った人を加えました。
 この場面の人物は少しずつ特徴が異なり、次の場面にも同じ人が何人か出て来ます。私は中学時代に陸上競技部をやっていましたので、手前の男の走り方には、その時のイメージが投影されています。〔私は中学の校内マラソン大会では2年連続学年1位で、2年生の時は学校総合(600人以上います)でも1位でした。また、総合体育テストでは学年で2位でした。私は中学時代「絵」が上手い事でも学校内で有名人でしたが、足が速い・運動神経が良い事でも通っていました。プチ自慢です。〕 中程の男の腰に巻いているのは鎌入れですが、実際トン族の村で見た形のものです。手前の女性の背中にあるのは、トン族特有の装飾品で銀製の背飾りです。渦を巻いた文様はトン族では魔除けの効果があるそうです。「第四場面」のチャンファメイのアップ像を見ると良く分かるのですが、この背飾りはそのまま胸当てにつながっていて、おもりの役目もはたしている様です。また、良く見ると「第四場面」のチャンファメイの襟(えり)の後部にも魔除けの渦巻き文様の刺繍がほどこされているのが分かります。トン族等には、悪魔は後ろから来るという言い伝えがあり、特に背面にこの様な魔除けの文様をあしらいます。
 チャンファメイの駆けて行く光の中、ガジュマルの葉が彼女を見守っています。

 「第九場面」は、山に登り、皆でカブを切り刻み、穴を掘り拡げている所です。赤帯のイケメンの兄さんも再登場です。喜ぶ人、水をくむ人、飲む人、水を見下ろす人、色々な人々の表情を描き分けました。カブは切られながらも、まだ生命を保つかの様な不気味さです。チャンファメイの白髪と水の流れが対応しています。空からは山神が現れる時の象徴、不気味な群雲(むらくも)が湧き出して風が強くなって来ています。山肌には、本来もっとヒマラヤ寄りの高山に咲くはずの青いケシが不気味に咲いています。
 ラフスケッチでは、チャンファメイはもっと複雑な動きをしていたのですが、編集部の意見で抑制的な動きにしました。

 「第十場面」は、「第五場面」と対をなす場面で、同じく「もみ紙」の技法ですが、色を赤系にして山神の怒りを表現しました。風は逆巻き、松明は燃え盛り、コウモリが飛び交っています。(コウモリは中国では吉兆のシンボルなのですが、ここでは西洋や現代日本人のイメージに合わせて、不気味さの象徴として描いています。しかし、最後までの展開を考えると吉兆の前兆だと考えても、あながち間違いでは無いでしょう。)山神は怒りをあらわにし、彼の大切なご馳走や血らしき飲み物も吹き飛ばしています。それに対して、覚悟を決めたチャンファメイの落ち着いた姿は、「第五場面」とは真逆の様相です。山神の毛は金泥で描き、チャンファメイの白い髪と対比しています。


 次は、私が最もこだわり、最も大切だと考える場面「第十一場面」ですが、この話はまた次回としましょう。 日本画家・絵本画家 後藤 仁
 

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プロフィール

後藤 仁(GOTO JIN)

Author:後藤 仁(GOTO JIN)
 ~後藤 仁 公式ブログ1~
日本画家・絵本画家 後藤 仁(GOTO JIN)の日本画制作、絵本原画制作、写生旅行、展覧会などのご案内を日誌につづります。

  〔後藤 仁 略歴〕
1968年兵庫県赤穂市生まれ。15歳、大阪市立工芸高校美術科で日本画を始める。東京藝術大学絵画科日本画専攻卒業、後藤純男先生(恩賜賞受賞者)に師事。在学中より約12年間、旧岩崎邸、入船山記念館、孫文記念館(移情閣)等の金唐革紙(手製高級壁紙)の全復元を行う。卒業以降は日本画家として活動し、中国・インドをはじめ世界各地に取材した「アジアの美人画」をテーマとする作品を描き、国内外で展覧会を開催する。近年は絵本の原画制作に力を入れる。絵本作品に『ながいかみのむすめチャンファメイ』(福音館書店)、『犬になった王子 チベットの民話』(岩波書店)、挿絵作品に『おしゃかさま物語』(佼成出版社)。『犬になった王子 チベットの民話』は、Internationale Jugendbibliothek München ミュンヘン国際児童図書館(ドイツ)の「The White Ravens 2014/ザ・ホワイト・レイブンス 国際推薦児童図書目録2014」に選定される。NHK日曜美術館の取材協力他、テレビ・新聞等への出演・掲載も多い。金唐革紙保存会 主宰。日本児童出版美術家連盟(童美連)(太田大八先生、赤羽末吉先生、いわさきちひろ先生らが創設)会員。絵本学会(太田大八先生らが創設、現会長:松本 猛先生)会員。日本中国文化交流協会(井上 靖先生らが創設)会員。この本だいすきの会(代表:小松崎 進先生)会員。2017年度より東京造形大学、絵本講師に就任。千葉県松戸市在住。

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絵本ナビ「犬になった王子  チベットの民話」絵本ナビ「犬になった王子 チベットの民話」
絵:後藤 仁 /文:君島 久子 /出版社:岩波書店絵本ナビ


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