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2013-07-23

絵本『ながいかみのむすめ チャンファメイ』出版までの永き道のり その10

 福音館書店の絵本『ながいかみのむすめ チャンファメイ』の本画制作も、2011年8月頃には「第三場面」に入りました。

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 一旦話は横道にそれますが、日本画家(画家)ならば誰でもがすんなりと「絵本」を描けると言う訳では無いと思います。私の場合「人物画・美人画」をテーマに永年描いていますので、基本的に人物描写が得意という点が一つあります。「絵本」では、人物が描けないと話になりません。その他、日本画で「風景画(自然・遺跡・建築物等)」「花鳥画(花・鳥・動物)」等も描いて来ましたので、私には「これはどうしても描けない。」という大きな死角が無いのです。職人家系に生まれ、生来手先がかなり器用だという利点もあります。
 小学校では「マンガ」「イラスト」を多く描き、中学校からは「アクリル画」を描き、高校では「油彩画」「デザイン」「彫塑」「版画」「製図」「デッサン・着彩」等も本格的に勉強しています。
 幼い時から多くの「絵本」を見て育ち、いわさきちひろやアーサーラッカムを崇敬し、古くからの無類の宮崎 駿アニメファンでもありました。その様な幅の広い教養・経験が「絵本」制作にも活きていると思います。あとは、物語・小説等の読書が好きだという事も、「絵本」制作には欠かせない要素です。私は元来、物語性のある作品を目指して描いて来ましたし、「物語絵」「絵巻物」「絵本」を本格的に描きたいという強い思いがずっとあったのです。

 反面、軽い色弱であるという色彩を扱う者にとって致命的な問題も持っているのですが、昔、眼科医で見てもらった時、普通の色覚正常者が見分ける事の出来無いという、微妙な白黒のグラデーションの変化を私は見分けられているそうです。つまりは、色弱の欠点を脳の別の機能がおぎなっているのです。印象派のモネは、晩年、白内障による色覚異常が現れたのですが、その頃の作品の色彩のインパクトは高い評価をされています。色弱の人は染色家・デザイナー等にはなりにくいですが、絵描きの場合、その様な色覚の個性もあながちマイナスとは限らないという事です。
 ただ、予備校の頃の着彩では、やはり色使いで苦労しました。当時の講師の村上 隆さんから「お前、色彩感覚おかしいんじゃねえか。」と何度も叱咤されました。その度、色弱を理由にしたくない私は、研究と経験で色の苦手意識を克服していったつもりです。逆に、白黒だけで描くデッサンは得意で、村上 隆さん等からは「お前の鉛筆の色幅は半端ねえな~。」と評されました。当然、当時の20人ばかりの立川美術学院日本画科で私の石膏デッサンをしのぐ者はいませんでした。同じ様な悩みを抱えている、若き絵描き諸賢がおりましたら、どうぞ自信を持って研鑽を怠らないで下さい。
 
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 「第三場面」は最初のラフスケッチでは、右側のカブを抜く所だけを描く予定でした。左側には遠くチャンファメイの村が見えるというダイナミックな場面を想定していました。私は今回、カット的な表現を入れずに全場面を左右一場面で描く考えだったのですが、ラフ制作の途中で福音館書店編集部が「ガジュマルの木で憩うチャンファメイを冒頭辺りに挿入して、物語の布石としたい。」と言うので、その意見をのみました。一場面の絵画的構図としては迫力が大きく欠けてしまいましたが、話全体の展開を考えるとガジュマルの印象が深まるという意味はあったと思います。
 なお、チャンファメイがカブを抜くこのシーンは、チャンファメイの元気でおてんばな一面を表したいという私の思いとともに、芸術家の大先輩である彫刻家・佐藤忠良先生の作品で、福音館書店の名作中の名作絵本『おおきな かぶ』への私からのオマージュでもあります。
 ここに咲いている花は、本当はもっとヒマラヤ近くでないと咲いていない、幻の青いケシ(ブルーポピー / メコノプシスホリドュラ)ですが、山の不思議感を高める為に添えました。

 「第四場面」は、引き抜いた不気味な生命体を感じさせるカブと、出て来た水を無我夢中で飲むチャンファメイの対比が見所です。不気味なむら雲は山神が出て来る時の前兆です。チャンファメイの顔のアップですので、その髪の後れ毛や目鼻立ちの美しさを最大限表現したいと思った事は言うまでもありません。カブは実物を何度もスケッチしました。

 「第五場面」は、山神の不気味な洞窟を如何に表現しようかと考えて、日本画の伝統技法を私なりに発展させた「もみ紙技法」を用いました。後の「第十場面」も色違いの「もみ紙」です。この「もみ紙」は「裏彩色」という技法も併用した凝った仕様ですが、詳しくは企業秘密です。通常の絵本画家には多分表現不可能でしょう。中国の貴州省・広西チワン族自治区辺りは桂林に代表される石灰岩のカルスト地形で、私も実際取材しましたが、この様な大きな鍾乳洞がたくさんあります。
 この山神はオランウータン等をスケッチして参考にしました。中国の民話にはこんな猿の様な怪物「狒々(ヒヒ・ショウジョウ)」がよく登場します。山神の毛は金泥(一般的には金粉と言われる本当の金で出来た絵具)で描いています。ちなみに金泥は0.4グラムで4000円近くします。
 絵本の封入冊子にも書きましたが、山神によって人間の暴威・欲得を表したいと思い、福音館書店編集者は最初首をかしげていましたが、あえて肉を喰らい生き血を飲むという通俗性を描きました。良く気を付けて見ると、この洞窟内には水が豊富にある事が分かるでしょう。つまりは、充分あるのにもかかわらず他者には一切与えないのです。人の骨らしきネックレスや虎の皮衣、唐草文様の敷物等の表面的で贅沢な装飾品も、怖くもありながら、どこかその独善ぶりの滑稽さを表現しています。皆さんの近くにもこの様な人はいませんか?
 洞窟にはコウモリもとまっています。洞窟内に風と共に吹き込んで来た葉っぱは、ガジュマルの葉でしょうか・・・。

 次は「第六場面」ですが、この話はまた次回としましょう。
 
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2013-07-12

絵本『犬になった王子 チベットの民話』の原画を描き終えました!!

 岩波書店の新作絵本『犬になった王子 チベットの民話』が一年以上の日本画による作画をへて、ようやく描きあがりました。後は岩波書店編集部にお渡しして、校正・印刷を残すのみです。
 この絵本の原話は、宮崎 駿氏の作品「シュナの旅」(後にスタジオジブリのアニメ映画「ゲド戦記」の原案になる。)の原話にもなった、君島久子先生の名作民話です。脚色の無い純粋な絵本化は、これが初めてです。
 11月15日、岩波書店から出版されますので、楽しみにしていて下さい。またその後、東京都心での「絵本原画展」が予定されています。
 詳しい絵本制作の課程や「絵本原画展」案内等は、絵本出版後おいおい掲載していきます。今後ともよろしくお願い申し上げます。 日本画家・絵本画家 後藤 仁


 絵本『犬になった王子 チベットの民話』表紙原画部分絵本『犬になった王子 チベットの民話』表紙原画 部分


 2013年11月15日 出版  
岩波書店  絵本『犬になった王子 チベットの民話』

   絵 後藤 仁/文 君島久子(国立民族学博物館名誉教授)
 
 穀物のない国の勇敢で心の優しい王子が、苦難の旅を乗り越え麦のタネを手に入れるまでを描く、壮大な冒険物語です。宮崎駿「シュナの旅」(徳間書店)(のちにスタジオジブリのアニメ映画「ゲド戦記」の原案となる。)の原話にもなった名作を初絵本化。チベットの民話。

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2013-07-02

「後藤仁絵本原画展」がいよいよ始まりました!!

「後藤 仁 絵本原画展 ~絵本出版・日本画画業30年記念~」が、岐阜県の飛騨絵本美術館ポレポレハウスで始まりました。8月31日まで期間中無休(AM10:00~PM5:00)で開催します。
 8月11日には「後藤 仁 来館サイン会」(PM1:00~4:00まで)があり、私も会場にいます。詳しくは、下記(以前の記事)の展覧会案内をご覧下さい。

 昨日、搬入から帰って来ました。東京からは車で結構かかりましたが、豊かな自然の中にある可愛らしい素敵な雰囲気の「絵本美術館」です。ハイジの家の様な可愛くて居心地の良いコテージもあり、宿泊してゆっくり絵と自然を楽しむ事も出来ます。気さくなオーナーの他に、ヤギや犬や猫も出迎えてくれました。
 お近くの方、また夏休みの旅行に、ぜひ、ご来館下さいます様よろしくお願い申し上げます。


ポレポレハウス 看板飛騨絵本美術館ポレポレハウス 看板
ポレポレハウス 美術館飛騨絵本美術館ポレポレハウス 美術館外観
ポレポレハウス 展示会場飛騨絵本美術館ポレポレハウス 後藤仁絵本原画展会場 後藤 仁

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後藤 仁 プロフィール

後藤 仁(JIN GOTO、后藤 仁、고토 진)

Author:後藤 仁(JIN GOTO、后藤 仁、고토 진)
~後藤 仁 公式ブログ1~
絵師〈日本画家・絵本画家、天井画・金唐革紙制作〉後藤 仁(JIN GOTO、后藤 仁、고토 진)の日本画制作、絵本原画制作、写生旅行、展覧会などのご案内を日誌につづります。

【後藤 仁 略歴】
 師系は、山本丘人(文化勲章受章者)、小茂田青樹(武蔵野美術大学教授)、田中青坪(東京藝術大学名誉教授)、後藤純男(日本芸術院賞・恩賜賞受賞者)。
 アジアや日本各地に取材した「アジアの美人画/日本の美人画」を中心画題として、人物画、風景画、花鳥画などを日本画で描く。また、日本画の技術を応用して、手製高級壁紙の金唐革紙(きんからかわし/国選定保存技術)や、大垣祭り(ユネスコ無形文化遺産)の天井画、絵本の原画などの制作を行う。
 国立大学法人 東京藝術大学 デザイン科 非常勤(ゲスト)講師(2017~21年度)。学校法人桑沢学園 東京造形大学 絵本講師(2017~18年度)。日本美術家連盟 会員(推薦者:中島千波先生)、日本中国文化交流協会 会員、絵本学会 会員。
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 1968年兵庫県赤穂市生まれ。15歳、大阪市立工芸高校 美術科で日本画を始める。東京藝術大学 絵画科日本画専攻 卒業、後藤純男先生(日本芸術院賞・恩賜賞受賞者)に師事。在学中より約12年間、旧岩崎邸、入船山記念館、孫文記念館(移情閣)等の金唐革紙(手製高級壁紙)の全復元を行う。
 卒業以降は日本画家として活動し、日本・中国・インドをはじめ世界各地に取材した「アジアの美人画/日本の美人画」をテーマとする作品を描き、国内外で展覧会を開催する。近年は「絵本」の原画制作に力を入れる。
 2023年、大垣祭り(ユネスコ無形文化遺産)天井画『黒龍と四つ姫の図』を制作奉納する。

○絵本作品に『ながいかみのむすめチャンファメイ』(福音館書店)、『犬になった王子 チベットの民話』(岩波書店)、『わかがえりのみず』(鈴木出版)、『金色の鹿』(子供教育出版)、『青蛙緑馬』(浙江少年児童出版社/中国)。挿絵作品に『おしゃかさま物語』(佼成出版社)。
 『犬になった王子 チベットの民話』は、Internationale Jugendbibliothek München ミュンヘン国際児童図書館(ドイツ)の「The White Ravens 2014/ザ・ホワイト・レイブンス 国際推薦児童図書目録2014」に選定される。また、宮崎 駿 氏の絵物語「シュナの旅」の原話になった事でも知られている。
○NHK日曜美術館の取材協力他、テレビ・新聞・専門誌・インターネットサイト等への出演・掲載も多い。

★現在、日本国内向けと、中国向けの「絵本」を制作中です~❣

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絵:後藤 仁 /文:君島 久子 /出版社:岩波書店絵本ナビ


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