2013-06-23
絵本『ながいかみのむすめ チャンファメイ』出版までの永き道のり その9
「扉」はトウカオ山の見える風景を描きましたので、風景画も多く描いて来た私の日本画の技量を発揮出来ました。胡粉と緑青の美しさは、日本画の絵具ならではの魅力でしょう。かすみが漂う、トウカオ山の遠望です。この場面は物語の後日談であり、現在も中国・トン族村のどこかにあるであろうトウカオ山を描いていますので、美しく白く長い滝が流れています。空にはタカ(トンビ)が飛んでいます。上部の文様は、私が現地で購入したトン族の手造りの伝統衣装の刺繍を参考にしています。
今回の絵本は人間が主人公ですが、良く見ると多くの動物が隠れています。「表紙」にも、ツバメとリスがいます。動物好きの子供達に、絵本の中に何が隠れているかを探しながら、楽しんでもらおうと考えました。
「扉」の「題字」は、「表紙」と同じもので、印刷で合成しています。この「題字」も私が試行錯誤して考案しました。「ながいかみのむすめ」は、チャンファメイの漆黒の長い髪をイメージして濃い群青色で描きました。「チャンファメイ」は、チャンファメイの元気で可愛らしいイメージから想起しました。「ン」の字の点は、チャンファメイのかんざしの花細工です。最初は字の両端にチューリップとキノコを描いていたのですが、編集部の意見もあり削除しました。
7月初め頃から「第一場面」に入りました。この場面は、トン族の村の紹介の場面ですが、チャンファメイがブタに餌を与えようとブタを呼んでいる所を描いています。人々は皆、水くみや畑仕事等の労働をしています。赤ちゃんをあやす母、糸車をまわす人、ニワトリに餌をやる少女、掃除する少女、ネコも隠れており、空には鴨の群れです。家々からは、夕餉の煙が漂っています。家の前には、藍染めの布や干し草が吊るされ、脱穀用の道具も置いてあります。村や人々の様子はほとんど、実際現地で私が見た光景を描いています。建物は、トン族の伝統家屋の吊脚楼(つりあしろう・ちょうきゃくろう)です。本来大抵が二階建てなのですが、チャンファメイの家のみ母娘の二人暮らしの貧しさを表す為と、次の場面の母娘の位置関係の都合で、一階建てにしました。夕景で全体が赤っぽいのですが、水の無い村の乾いた風土も表しています。
最初のラフスケッチでは、鼓楼(ころう)のある平地の村を描いていたのですが、編集部の意見もあり、山裾の鼓楼も無い寒村に描き直しました。(本来、トン族は川辺の平地に住み、ミャオ族は山の中に住む場合が多いらしいです。)どうしてもトン族の象徴である鼓楼を描きたかった私は、増衝村をモデルとした少し大きな村を遠景に描き込みました。
榕樹の木は最初の案では無かったのですが、編集部の要望により、話の布石として描き込みました。木を後から右上に加えたので、構図としては×(バツ)の形となり少々散漫な構図になってしまいましたが、物語の展開を考えると編集部の意見ももっともな事でしょう。
「第二場面」は、第一場面の続きです。ブタに山で採って来た草を与えています。ブタは何度も動物園でスケッチしたのですが、草を食べる時この絵の様に横向きに食べていきます。後ろには、病気の母が寝ています。草は枯れて、地面は乾燥しています。良く見るとヒヨコさんも餌を欲しがっています。
この様に、だいたい二週間に1枚のペースで描き進めました。次は「第三場面」ですが、この話は、また次回としましょう・・・。
テーマ : 絵本・制作・イラスト
ジャンル : 学問・文化・芸術